コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 男はつらいよ 寅次郎紅の花(1995/日)

凡そこのようなエンディングを持ち得た映画というのは「寅さんシリーズとしては」などという枕詞と関係なく、映画として最も幸福だと思うのだ。阪神淡路大震災という未曾有の災厄を背景にしたということは勿論あるのだが、ラストの長田区の俯瞰ショットの力強さは「あざとい」と云われようがとにかく映画の、映画でしかできない演出だ。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ただし、実は私にとって本作の最も愛すべきシーンはエンディングではない。岡山津山での「花嫁を乗せた車はバックできない」という風習を上手く利用したシーンこそ、山田洋次が時折り見せる素晴らしき活劇性だ。このシーンの最後は超ロングで笹野高史が満男を殴るカット、という緩急の呼吸なんかも見事なもんだ。或いは、泉が大島へ行き、海岸で満男に詰め寄るシーンもいい。科白は臭いが、砂浜を歩いてく様がいい。また、犬塚弘が運転するタクシーで、寅がJRの金町までリリーを送るシーン。三平が寅の鞄を持って追いかける。そして三平が追いついて見送るカットがクレーンで上昇移動するというのも呆気に取られる映画性だ。まあこうやって上げて見ると、どれも渥美清のシーンではない、というところがつらい、と云えばつらいのだが、そんな無体なことを云っても仕方が無い。最終作まで映画として見所満載だし、日本映画として最高水準である、ということこそ特筆すべきだ。

#備忘として。寅とリリーを前にした満男が回想で語る過去のマドンナは、リリーの他に、『あじさいの恋』のかがりさん・いしだあゆみ、『花も嵐も寅次郎』の蛍子・田中裕子、『口笛を吹く寅次郎』の竹下景子(「再婚したよ」と寅が言う)、『寅次郎サラダ記念日』の三田佳子

#山田洋次の脚フェチを裏付けるシーン。満男の勤める会社は婦人靴の卸販売のような会社だが、本作でも女子社員に靴を履かせる場面がある。或いは、大島の海岸に現れた泉が、履いているパンプスを脱ぐ演出なんかも指摘できる。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (7 人)ぱーこ[*] 寒山拾得[*] けにろん[*] イライザー7 G31[*] TOMIMORI[*] ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。