コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] クレイマー、クレイマー(1979/米)

母親(の視点)バージョン。その名も「(元)ミセスクレイマー」。→
すわ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







結婚してから仕事も辞めて、家族のために尽くしてきたのに、夫は仕事ばかりで家庭を全く顧みず、自分にも無関心、そして子どもにすら…。我慢できなくなって彼女は家を飛び出す決意をするが、職も無い、精神も不安定な自分に、子どもを連れて行く資格はないと思った彼女は、つらい選択をする。 そして新しい地で見つけた新しい自分。「なんだ、私、まだやれるじゃん」。「もっと早くこうすればよかった。ウジウジ悩む必要なんてなかったんだ。勇気を出して行動を起こせば、私はちゃんとこうやって生き生き暮らせたんだ!」……しかし気掛かりなのは、愛する子ども。身勝手な選択だったが、もしあの時、子どもを連れて行けば、自分の苦しみに子どもを巻き込み、小さな心を傷つけたかもしれない。それはエゴではないか、と。それほど彼女は悩んでいたから。しかし今なら生活力もあるし、心に余裕もできた。子どもを夫から取りかえしたい。そして彼女は裁判を決意する…

しかし---

彼女は、自分にとっては子どもと離れていた時間はたったの18ヶ月、一緒にいた時間の方がその何倍も長いのに、子どもにとってその18ヶ月は、彼女にはすでに埋めようがないほど長い時間だったことに気付き始める。改めて自分がしてしまった事の重大さに気付き、深く後悔する。

「あの子の家はここよ。」つらいけど、それが彼女の答えだった。「もう取り戻すことはできない。子どもも、そして時間も。なぜなら私は、もう違う生き方を選んでしまったのだから……」

…せ、せつねえじゃねえかこのやろう!

--------------------------------------------

例えば、友人Aと友人Bが、ある事でケンカをしたとする。そして私はAから相談を受け、ケンカの成りゆきを聞く。すると、Aの個人的感情が入りまくりの説明を受けた私は、「それはBが悪い」と思ってしまうだろう。しかし別の日、Bからも相談を受ける。すると、今度は、「え?Aったらそんなこと言ったの?なんだよ、Aも悪いじゃん!」と思うかもしれない。

…この映画も非常に「一方的」な話だ。夫の視点でストーリーが進むため、観客はほぼ夫側につき、身勝手な奥さんに腹が立つだろう。しかしそれではあまりにも奥さんが可哀想だ。奥さんの気持ちの描写が少なすぎて、私は真相をつかみきれていないような、妙なもどかしさを感じた。さらに、「嫌だったら戻ってもいい?」と子どもが泣きながら言った時、ダスティン・ホフマン演ずる夫の顔に「俺の勝ち。」という満足げな表情が見えた気がして、ちょっと不快になった。

しかし、友人の女性の存在で、考え直した。

奥さんから夫婦仲について相談されていた友人が、最初は彼女に同情し、夫のごう慢さを非難していたのに、奥さんが出て行ってからは、夫と会う事が多くなり、ちゃんと子どもを愛し、懸命に育てている夫を見て、今度は夫に同情し、奥さんの身勝手さを責めるようになる。彼女のこの心の変化が、この映画の「一方的さ」をちゃんと説明してたんじゃないかと思う。

物事を一つの方向から見てしまうと、思い込みや何やらで、その裏にあるものに気付くことができない。どっちが悪くてどっちが良いとか、どっちが勝ってどっちが負けとか、そういうことじゃなくて、どちらにも欠点があり良い所があり、正しいと信じる主張がある。だから私たちも、物事を広い視野で、大きな心で、冷静に見つめることが大事なのだ。一方的に夫の視点だけで撮ったのは、慣れない男親が子育てに奮闘している様子の方が面白いからってだけじゃなくて、そういう深い意味があったんじゃないかと、深読み人生の私は思うのであります。

それにしてもジャスティンくんの演技には脱帽でした。かなり光ってた。以上、長くてすいませんでした。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (14 人)モロッコ じぇる けにろん[*] 大魔人[*] Yasu[*] Myurakz[*] Stay-Gold 緑雨[*] 鵜 白 舞[*] ジャイアント白田 はしぼそがらす[*] mal[*] tredair peacefullife[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。