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[コメント] パプリカ(2006/日)

大変に綺麗にまとまっているし、とても美しい作品だなぁとも思うんだけど、そこまで。そのこじんまりした纏まりは悪いことではないと思うけど、だからと言って別に背負えもしない。
Myurakz

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 長編である原作の端折り方、そしてその映像化の仕方は大変に正調で、「ちょっと毒がある」印象をも含めて「綺麗にまとまった筒井作品」だと思います。夢にダイブするときの音楽も勢いがあり、敵陣に入り込むシーンだというのにワクワク感がある。千葉とパプリカの外見をあそこまでバッサリ変えたのも正しい。それらの点で言うなら、確かに「あぁ、「パプリカ」の映画版を観たなぁ」と思える作品だったと思います。

 ただ何となく終始ノリ切れなかった印象もまた強くあるんですよね。あれこれと色々な部分で細かな失敗をしているように思える。

 そもそもこの「パプリカ」というお話、僕は筒井長編の中ではかなり大人しいまとまりを見せた作品だと思っています。もちろん物語の最後では筒井らしい頭のおかしな盛り上がりを見せてくれるんですが、全体を通して見るとエログロナンセンスの匂いが(あくまで筒井にしてはですが)薄味に仕上げてある。これは女性誌に連載していたということも作用しているのかも知れません。

 で今作、物語を端折って短くするときに、その「薄味のエログロ」部分を更に削った感じがするんですよ。だから映画を観ていて「うわっ」とか「うへぇ」と思う部分があまり無い。よく言えば「万人受けする作品」なんだけど、悪く言うと「驚くべき点」が欠けてるように見えるんです。結果作品の出力は明らかに下がっている。

 またこの「驚くべき点がない」というのは、ストーリーだけでなく映像表現にも言えるような気がします。妄想の百鬼夜行、日本人形に爆破される市街地、どれを取っても今まで僕らが観てきた映画に見劣りはしないけど、目新しくもいない。具体的に書くと、僕は百鬼夜行のシーンで『平成狸合戦ぽんぽこ』のパレードや『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』の文化祭を、日本人形のシーンでは『風の谷のナウシカ』の巨神兵を思い出しました。もちろん「映画が常に新しいものを提示し続けなければならない」なんてことはないんだけれど、少なくとも「今まで見たこともない大変なことが起こった!」という爆発力はそこには無かったように思います。アニメファンでもない僕ですらそう思うんだから、この表現の平易さはかなりのもんです。

 そして更に付け加えるとこの映画、病院以外の街や人々が“息づいている感じ”が全くしないんです。病院内の人々の関係を端折るのに一杯一杯で、“その病院が存在する世界”を描く作業が一切されていない。だから街が次々と破壊され人々が続々と狂おうとも、全く大変な感じがしないんです。何となく箱庭が壊されてるようにさえ見えてしまっている。で、しかもその破壊が既視感溢れるものでエログロも抑えめだから、何だか小さい小さい話に見えてしまうと。

 まぁどれもこれも作品を貶めるには至らない程度の個人的好みの問題ではあるし、最初に書いた通り「綺麗にまとまってるなぁ」とも思うんですけどね。だからと言って驚嘆も感激も動揺もしなかったなぁと、ちょっと食い足りなく感じたりもするのです。

 ただ狂った人々が口にする意味不明の単語の羅列、あれはエラいよく出来ていた。狂っているなりの妙なグルーヴ感が心地よくて、何だったらこれだけずっと聞いていたいような気持ちになりました。あれだけ抜き出したら★5。

(評価:★3)

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