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[コメント] 亡国のイージス(2005/日)

機能しえないテーマ。
Kavalier

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







つじつまに合わない箇所やおかしい部分が多量にあっても、映画の骨子とも言うべき表現が成功していれば、見るに値するものになったかと思うんだが…。

アクションシーンをほとんどダイジェストで処理して直接的な表現を省略していることや、登場人物達の動機を大マジメに掘り下げているあたり、この映画は本気で思想的な物を志向しているんだろう。

戦後民主主義に基づいた、いわゆる自衛隊の"専守防衛"という思想をフィクションで扱うのに際して、特殊な状況下に面した登場人物達が"打つ""打たない"という選択を巡って苦闘するという状況が、作品のあらゆる場所に大小を問わずパラダイムに配置されている。問題はこういった表現がほとんど皆にわたって失敗してしまっていることで、映画のテーマが機能しえないばかりか、2時間の上映時間を通じてほとんどサスペンスが醸成されないことにもなっていて、見るに耐えないものがある。

上記での最大の失敗は寺尾聰演じる副長に率いられたテロリストグループが東京に核兵器を模したミサイルを撃ち込むか、撃ち込まないかという、映画全体を支配する一連のプロットが成立していないことにあるんだろう。テログループの行動動機が、国を憂いて出した犯行声明を日本政府に認めさせることにあり、東京に撃ち込まれるべきミサイルはその動機の副次的な物にすぎないと、冒頭から観客に開示してしまうので、映画において東京にミサイルが撃ち込まれることが無い、と前段階で分かってしまい、このミサイルを巡る巨大なサスペンスが一切機能していない。

テロリストの動機が一切作中で解明にされないことで、東京に核弾頭が撃ち込まれる危機を最後まで引っ張った『2課の一番長い日』、物語に進行と共に動機が解明されていく『沈黙の艦隊』『パトレイバー1』、クーデターと見せかけたテロ行為『パトレイバー2』。考えてみれば、作中の重要人物の動機を巡る表現は、元ネタになっているいくつかの先行作品はいかに知性的に表現されていたことか。

さらには、後半には上記の副長の動機が息子を殺された私怨であったと判明され、ここはまさに噴飯ものではないか。

それはそれで、秋葉原を闊歩することや電車内で携帯のメールを打つ若者を問題視することが、なぜ国防の問題にリンクするか最後まで鑑賞してもよく分からなかったんだが、これはどういうことなんだろうか。

と疑問を呈してみるも、まあ推測はつかないこともない。平和ボケと公共道徳の低下が、国防の動機のづけ難しさや低下に繋がっていると言いたいんだろう。 つまるところ、産経新聞が出資しているように、ある種の思想を持つ人や世代に対して慰撫映画だったと結論付ければいいのかな。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)寒山拾得[*] 林田乃丞[*] おーい粗茶[*] けにろん[*] Orpheus ぽんしゅう[*] ジョー・チップ[*] アルシュ[*] Walden[*]

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