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[コメント] 告白(2010/日)

あいかわらずものすごい映像。すべてのカットがデスクトップの壁紙になっちゃうし、TVCFになっちゃう。ジャスト・ルック・ライク・イット。恐ろしい映画。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 映像作家としての中島哲也の力量にもはや疑いの余地はなく、それはただ見た目がきれいだとか動きがすごいとかいうだけでなく、人物の心の動きを映像に変換して表現する技量と熱量において、少なくとも国内で比肩する者はないと思う。

 松たか子はどう見ても美しき、そして冷たき復讐者にしか見えないし、少年Aはリトルサイコキラーにしか見えない。すべてのカットでその描写は成功しているし、不謹慎な言い方をすれば、私はそれに夢中になった。爽快感さえ覚えた。

 だが、果たして物語のなかの少年Aは、昨今巷で取り沙汰されるようなサイコキラーでは、まったくない。人の死に特別な感情を抱かない鈍感な性格ではあるが、猟奇殺人者では決してない。教師の娘を電気ショックで失神させたが、そこに殺意はあっただろうか。教師への“実験”でダメージを与えられなかった「びっくり財布」は、明確な殺意を持って改良されていただろうか。答えは、否だ。彼はそこまで踏み込めなかった。あるいは、踏み込まずに済んでいた。なんとなく弱者に暴力を振るいたくあり、振るいはしたが、それはたとえば近所の小学生の首を切り落として校門の門柱に置くような行為とはまるで別の性質のものだ。

 教師の娘を倒した時点で、彼は少年法云々の前に、そもそも殺人犯ではなかった。彼が犯した唯一の殺人は、痴話ゲンカの末の恋人殺しだけだ。

 少年Aを本当に殺人犯にしたのは、いったい誰だ。単にミーハーでセンシティブなだけの普通の少女が死ななければならなかった原因をつくったのは、いったい誰だ。

 それは女教師だろう。直接的ではないにしろ、少年Aをよりエキセントリックな行動に走らせた原因は、これは明らかに女教師による巧妙なプレッシャーだろう。

 この映画を私が恐ろしいと感じるのは、それがそう見えなかったことだ。もともと少年Aはサイコであったように見え、正体不明のモンスターを退治する大人の女の姿に夢中になり、爽快感さえ覚えてしまったことだ。

 時代性や社会性を抱いた映画に対して私たち観客は、実生活をフィードバックさせることになる。それは映画が望むと望まざるとにかかわらずだ。

 実際、私たちが酒鬼薔薇聖斗のような本物のサイコキラーに出会う可能性は極めて低い。だが、この映画に登場したような、より幼い児童を傷つけてしまう少年や、偏執的に薬品をかき集めてしまう少女──つまりは、まだ一線を超えないところにいる危険分子に出会う可能性なら、決して少なくはないだろう。彼ら彼女らは、それこそ私たち大人がその知恵と理性を発揮して守るべき存在であると思う。もし目の前に現れたなら、救い出さなければならない存在であると思う。

 そうしたボーダー一歩手前の少年少女を、中島の卓越した演出は、丸めて叩いた。この映画と同じ顔をした少年Aが目の前に現れたら、私は彼をサイコ・モンスターと決め付け、恐れ、差し伸べようとした手を急いで引き、誰かが彼に“復讐”を果たしたなら、その話に爽快感を覚えるかもしれない。

 映像が説得力を持ち過ぎてしまっている。私たち大人の目を眩ましてしまうほどに。とても、とても恐ろしいことだ。

 なーんてね。

 なんて、言えない。

(評価:★3)

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