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[コメント] ブレードランナー 2049(2017/米=英=カナダ)

実存と生命と愛。滅びと対置される強靭なシンプリシティ。「魂」に触れる驚き。(再見して追記)
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







現実と虚構、生と死、人間とレプリ、あらゆる事象の境界が曖昧な世界で、神を気取る男の御託も、革命の大風呂敷も価値を持たず、台風の目の男が辿り着く(辿り着かざるを得ない)のは結局「愛と実存」というシンプル。圧倒的密度の意匠に立脚したこのシンプルの上で、死ぬか生きるか、人もレプリカントも違いはそれだけだ、という達観が滲む容赦ない物語が展開されるが、それでも鎮魂の放射能雪を降らせる優しさ。そこには記憶や感情から踏み込んだ「魂」に寄せる想いがある。力強い押井守といった趣で、思い切り刺さりました。

悪夢的な世界の意匠はより原作に近いが、実存とか愛にまつわるモチーフの手触りは、前作の意匠を踏襲しつつ、深く踏み込んでもいる。レプリと人間のハーフのコピー×レプリ×AIという、人との様々な境界同士が交合するラブシーンは前作よりもはるかに複雑で、簡単に書き表せない感情を喚起させる。(このラブシーン、18禁レベルにしていいからもっと生々しく描きこんで欲しいと思ったが、その辺は脳内で補完すればいい。)

終盤のKの闘いの執念は、ほとんど大義のためというより生きていること、己の魂を確認するための闘いであって、この点、ロイ・バティの造形が想起される。(自分の傷を確かめるシーンの度重なる挿入も相似)ウォレスの戯言に落とし前をつけるような筋に流れない辺りは、前作との良い差別化だ。それは少なくともこのKの魂に関する物語においては重要なことではないのだ。この放擲ぶりはとても好ましい。

繰り返しになるが意匠は完璧だ。エアカーが荒廃の地に停まっているだけで涎が出てしまう。テストの「非人道性」などの細部もよい。(やたらと「連結」という単語が連発されますが、これは原作へのリスペクト。人とレプリを分かつものは「つながり」への「共感」の有無という件が確かある。本作を見る限り、タイレル時代から既に曖昧だった境界は、本作の時系列上では更に曖昧になっていると見ていいだろう。「触れる」こと、「触れられない」ことに関するシークエンスの積み重ねもまた効果的だ。)

ベストショットは言わずもがな、ラストのKと雪。記憶は流されるものではなく降り積もるもの。そして、魂の余韻。記憶と魂を分かつことは難しい。データと人、レプリ、創造物と生(なま)の生を分かつことは難しい。でもここには明らかに魂としか形容し得ない何かがある。己の魂の手触りに戸惑い、その手触りを愛おしみながら、Kは降りしきる雪を見つめ続ける。激しい喪失感と充実感が同居する驚異的なラスト。完璧だと思う。

以下、再見して追記。

おーい粗茶さんが「ラヴ」の造詣について、「嫉妬」というキーワードを提示してらっしゃいます。なるほど、と思って再見し、いくつか新たな感想を得ました。なるほど、嫉妬らしきものが読み取れますが、それが嫉妬であるとして、何に嫉妬したのだろうかと。それは、Kに対する愛ということではなく、愛とか魂に関する実践そのものに対するものなんだと解釈しました。「ラヴ」と名付けられながらおそらくは愛されていなかったであろう彼女にとって、彼女の中にないそれが激しく彼女を揺さぶったに違いない。マダム(この人のキャラ、超好き)の愛の不可解、ジョイの愛の不可解。彼女はKの魂を形作った魂を攻撃しますが、そのことが、Kの魂の実践をより強固にしたようです。彼女のほとんど唐突に見えるぎこちないキスと、そのあとに続く「私は最高の天使」という捨て台詞のような言葉(彼女は「連結」ができない)。この時に彼女も越えられない壁を感じ、Kの魂に敗北を感じたのではないでしょうか。この時感じた喪失感と憎悪こそが、彼女の魂を形作ったに違いない。波濤の中の格闘シーンは紛れもなく魂と魂のぶつかり合い。初見ではよく見えなかったことですが、彼女に心情を寄せるとより深いものが見えてきます。

魂の不可解な手触り。嫉妬という意味では、ジョイの器となるセクサロイドの彼女(前作のプリス似なのが印象的)も、ジョイに対して嫉妬らしき感情を見せます。これも、Kに対する直接的な愛の表れというよりも、魂と魂同士が触れ合っていることそのものへの嫉妬、苛立ちに見えます。ジョイに同期され、彼女もまた、自分の中に「愛」があるか、自分の心をまさぐって、突然、自分のの中に「心」があることを悟ったに違いありません。例のラブシーンをもっと生々しく描くべきだ思ったのはまさにおーい粗茶さんが書かれている生理現象(全く同じ感想で驚きました)もそうなのですが、このあたり、彼女の心情をより提示して欲しかったからという意味合いがあります。ジョイを殺害されて喪失感に慄くKを、彼女が悲しいような、不思議そうな目で見つめるシーンがあります。彼女、ちょっと見にはかませ犬に見えますが、彼女の心情にはまた深いドラマがあると思います。思うに、彼女にもこの時、魂が生まれたのではないでしょうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ゑぎ[*] セント[*] 濡れ鼠 サイモン64[*] おーい粗茶[*]

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