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[コメント] ブレードランナー 2049(2017/米=英=カナダ)

越えられない壁の物語。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ここまでアンドロイドの心情に寄り添った映画はなかったと思う。前作で描こうとしたのは、まだアンドロイドのアイデンティティ停まりで、SF映画としてのテーマは当時はこれが限界だったんだと思う。テーマは多少敷居を低くして未来社会のディテール描写に心血を注いだ、という感じだった。それが本作では、主人公Kの抱く「もしかしたら自分は人から産まれたのかもしれない」ということへの憧れと失望に寄り添うことができるまでに鑑賞者たるぼくらのレベルはあがったんだなあと感嘆。だって60、70代くらいの老夫婦とか、50代のおばちゃんとかサイバーパンクに縁のなさそうな人たちが大勢観に来てて、KやKを愛するバーチャル彼女ジョイの恋心に(どこまでわかっているのかはともかく)一時でも心を通わせてるなんてなんか素晴らしいよ!(もっとも老人のほうが、とっくに人間に見切りをつけてAIBOとかアシモへ心を通わせ始めているかも知れないけど)。

もとい、Kを救い出したレプリカントの革命家の「(レプリカントから最初に産まれた子供が)自分だと思っていたの? それはわれわれみんなが自分だと思いたかった」とか、デッカードのKに向けた最後の台詞「俺は君にとって何だったんだ?」という台詞が残酷で切ない。結局偽装に使われただけで、デッカードとKはなんでもないんだよなぁという…その応えにKが微笑んで顎で娘に早く会いに行けよ、と促す仕草。寸前まで命がけでデッカードを救ったその直後なのに…。「越えられない壁」。すべてを悟って雪の中に死んでいくKがあまりにも切ない。

切ないといえばバーチャル彼女ジョイのKに対する恋心が本作の白眉と思うくらい切ない。もしかしたら「人から産まれた者」かもしれないというKの心を誰よりも理解し、わがことのように寄り添った。娼婦をよんで自らと同期して抱かれるところなどマジで切なかった。最初に戻るけど、もう映画はこんな心情まで描けるようになったんだなあと、ほんとに感嘆するしかない。

この場面で、DSCHさんが言われてる、もっと生々しく描いてほしかった、というのに凄く共感するんだけど、後ろ姿の同期した彼女(たち)が服を脱ぐところを正面からKが見つめるカットがあって、その時私は正直に言って、Kの股間が勃起してて欲しかった。生殖にはなんの意味もなさないその現象の切なさをさらけ出してくれれば…。まあ、さすがに今はまだ映画では無理だろうな、とは思うけど。でもそのうち鑑賞レベルがあがれば、きっとそんなことも描けるようになるだろう。

殺し屋ラブ、マダムなどのそれぞれの行動規範も明確で、脇役のキャラクターも魅力的な人が多かったのも特筆。特にラブ。マダム、ジョイ、レイチェルダミーという、主人公側にとっての愛すべき異性を瞬時に殺してしまう性格付けがほんとに素晴らしいと思う。殺したマダムの首をPCモニタに近づけログインするやいなや、マダムの首を無造作にほうり出す演出なんかのこだわりは最高(机に顎が物のようにガンって当たるやつ)。マダム、ジョイを殺した彼女って結局「嫉妬」みたいな感情があったのか、Kとの最後の格闘でラブがKに口づけをするところなんか、あえて説明があるわけでもないんだけど、なんか納得できちゃうし、いい演出だった。アンドロイドと人が水没する車の中で、三つ巴で必死に息を吸おうともがくシーンも良かった。「産まれる条件」は超えられなくとも「死ぬの条件」は同じ。それを銃やナイフよりより身近な感覚で表現しているところもさすがと思う。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (12 人)週一本[*] jollyjoker[*] pori ロープブレーク[*] 緑雨[*] ゑぎ[*] けにろん[*] Orpheus サイモン64[*] シーチキン[*] 袋のうさぎ DSCH[*]

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