★2 | 戦慄の調べ(1945/米) | 単調で弱い。主人公の造形に工夫不足を感じる。しかし、蠟燭とガス灯の犯罪映画としての明暗演出はよく、ロンドンの街の珍しい祭りの習俗を取り入れたシーンは面白い。「ガイの目を突き刺せ」という囃子歌が不気味。火のクライマックスシーンは見事。 | [投票] |
★2 | ジェイソン・ボーン(2016/米) | 脚本が呆れるくらい凡庸なので、これ以上の点をつけられないのだが、それでも、モブシーン撮影のうまさと、ラストの限界を突き抜けたカーチェイスは光った。つまり、制作の上流側のプアさを下流の現場陣が支えている映画。 | [投票] |
★3 | 君の膵臓をたべたい(2017/日) | 若い二人の主役の存在や振る舞いのもたらす透明な抒情感で一点突破を狙った感あり。一応の成功と言える。さらに12年後から描き始めることで、時制の中心が映画の現在から映画の過去に移行し、叙述を一層甘美にできた。しかし、追慕の念の持続や人物の一貫性というやっかいな課題が浮上し、そこがうまく処理されたとは言えない。 | [投票] |
★2 | 冷たい熱帯魚(2010/日) | 上から目線映画。人間の本性知っているかいと言いたげな作者姿勢を感じてしまう。それが後半にはドライブ力が失われていく。冗長な繰り返しになってきたこともあるが、血の演出は見せすぎないことにある。観客の慣れる力を測り損ねた作品に思われて仕方ない。感情移入させない前提で造形されたように見える登場人物たちの発する言葉一つ一つが、作り物のようだ。 | [投票] |
★4 | 隣の八重ちゃん(1934/日) | 日常的光景のようでもあり、そうでないようでもある。こんなに仲の良い近所付き合いが、当たり前であろうか。世話じみた口調(これがじつにうまい)で語られるも、会話内容は、時にぶっとぶ。この光景を一皮めくると途方もないアヴァンギャルドが飛び出しそうな不穏な気配。その不穏を体現するのが岡田嘉子。家庭に棲むヴァンプというカテゴリーが稀有だ。 | [投票(1)] |
★5 | 赤い靴(1948/英) | ブラックホールのような作品。映画の時空を歪ませる。ストーリー映画で、延々バレエシーンを見せ続ける荒唐無稽もさることながら、多重露光実写バレエという幻惑的な仕掛けは狂気の域。赤い靴のシンボル性が頂点に立つアナーキーさと、リアルなバックステージ描写の並置もまた根源的にラジカル。 | [投票(2)] |
★5 | 海街diary(2015/日) | 小さな違いが季節の変化のようなスピードで顕在化していく。前場面と今とでは確実に誰かに変化が起こる。その酷薄さ、その切なさ。いつか梅の実は収穫されなくなるだろう。姉妹4者4様のキャラクターが実に鮮明に表現される。対話の練度、非凡な場面転換でここまで映画が仕上がる驚き。 | [投票(2)] |
★2 | 南部の反逆者(1957/米) | 公民権運動が始まった時期の作品。その100年前の時代を舞台にクラーク・ゲーブルが悔いる白人を演じてみせたが、いつもの通りのゲーブル。女を守ったゲーブル。非アメリカ人であることの己の限界含めてそれ以外の解釈ができない。いい面の皮の白人たちが数名出るところが往時の新鮮味か。 | [投票] |
★4 | 花の中の娘たち(1953/日) | 小田急線沿線と思うが、多摩川を越えたあたりが田園地帯だった時代のホームドラマ。色彩設計が丹念で、こってりとした色調で花や空が美しい。それ以上に岡田茉莉子が奇跡の輝き。当時の日本人の変化の相を示しつつ、農本主義的な視点で締めくくるのだが、その保守性を笑うのは的外れ。「平均」を描くことも映画の務めだからだ。 | [投票(1)] |
★4 | 命美わし(1951/日) | よくできた大船調。ヴォランティアで自殺救済する正義漢を笠智衆、その妻を杉村春子が演じる。この夫婦の硬軟の取り合わせがすごい。活殺自在の杉村のせりふ回しが無類の出来栄え。登場人物すべていい役者で豪勢に奢っており、強引なハッピーエンドも許せてしまう。 | [投票] |
★3 | ジョーカー(2019/米) | トランプがあおりにあおった米国ルサンチマンの煮凝りのような映画。意図はわかる。感心しないのは下等な甘辛さに仕上がっていることで、徹底的にネグレクトされ続けた人間の悪への転生を見どころとしたかったのだろうが、古臭い。人間の壊れやすさを描きたかったのだとすれば、100倍の解像度が要る時代になった。 | [投票(4)] |
★3 | 薔薇合戦(1950/日) | 成瀬巳喜男の女性映画は、少しも女性を持ち上げない。お人好しで思慮浅い人間を的確に造形する。それでも、性欲や物欲で女性にもたれかかってくる男たちよりもずっとまなざしは優しい。ここでは若山セツ子がよい。いつもの庶民派の味を消して山の手のお嬢様をうまく演じている。 | [投票] |
★4 | 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021/英=米) | ダンディで女好きの工作員というキャラクターが、守るべきもののために行動する戦士に変わった。ダニエル・クレイグがボンドとともに遠いところまで歩いてたどり着いた世界がこれか。それでも歌は鳴り響く。それをよしとする。変わってこそ映画。第5作から封切を見続けてきた自分も褒めたい。 | [投票(2)] |
★5 | 夏物語(1996/仏) | 笑いと切なさの黄金のブレンドに心が蕩かされっぱなし。一筋縄で捉えきれない奥深い台詞の交錯に人間の真奥が滲み出す。圧倒的な映画の教養にひれ伏した2時間。繰り返し見るたびに発見があるだろう。 | [投票(1)] |
★3 | 静かについて来い(1949/米) | 典型的な警察捜査がきびきびと描かれる。描写の簡潔さは今の映画にない味で好ましい。ただ、主役二人がともに弱く、むしろ脇役の味濃さで楽しめる。ラスト、巨大な機械の積載された高層ビルのアクションは簡潔でスリルに満ちる。人形の幻想が必要だったか疑問。
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★4 | 危険な場所で(1951/米) | ノワールの切なさをたっぷりと賞味できる作品。仕事への打ち込み方を間違えた男の心の危ういバランスを、女が癒す。この女もまた薄幸なのだが、薄幸を乗り越え、諦念を乗り越え、聖女として輝く。この映画の美しさの芯はここ。前半と後半の対照が素晴らしい。 | [投票(1)] |
★3 | M(1951/米) | デパートの追跡劇が実に見事。倒錯的殺人者や警察の面々の造形も良い。しかし、トータルとしてみると、オリジナル作ほどの説得力は持ちえなかった。ルーサー・アドラー扮する弁護士をドラマの中でどのように位置づけたかったのか。俳優の好演を、脚本のロジックが支えられなかった。 | [投票(1)] |
★4 | ヒッチ・ハイカー(1953/米) | シンプルなストーリーラインを飽きさせずテンポよく見せ切った。犯罪者の不気味さを冒頭の数分で完全に表現するから、以降の展開のスリル感を増す。熱砂、男たちの汗、埃を上げて走る自動車。これら映画芸術ならではの大道具小道具が実に重厚に描かれて心地よい。 | [投票(1)] |
★2 | 大根と人参(1965/日) | 見事なほどつまらない映画であった。過剰な顔演技でコメディを押し切きろうとする、はしたない傲岸な態度。それでも映画全盛の余韻たなびく時代のこととて女優陣の美しいこと。乙羽信子のコメディエンヌとしての才能にはちょっと感動した。 | [投票] |
★3 | 底流(1946/米) | 前半は明るく寛闊に進むが、後半暗くもたれてくる。ロバート・テイラー扮する主人公の造形が手に余った。対する女性主人公のキャサリン・ヘップバーンの知的な美しさの造形はすばらしい。撮影・美術ともに戦前MGMの実力を示して申し分なし。 | [投票] |