[コメント] 亀は意外と速く泳ぐ(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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私も含め、「自分がつまらない人間だ」と思ってる人って、けっこう多いと思う。今ここにある一本のレールの上から、飛び降りる勇気も理由もないし、脱線してしまうほどの勢いもない。だけど、なんとなく不満だし、不安。ずっとこのまま平穏な日々が続けばいいと思うけれど、死ぬまで平凡なままである自分を想像すると寒気すら覚える。
そんな私たちにとって、クジャクのように自由なファッションと自由な行動原理で生きている人間は、一種の憧れの対象になり得る。「いいかげん大人になりなよ」なんて思いながらも、どこか羨ましくてどうしようもない。
スパイの仕事を引き受けたスズメは、自分でも「自分が変わった」ということに気付かなかった。だが、クジャクは地引網を引きながら「あなたが羨ましい」と言う。「フワフワやってると、自分が何のために生きているのか解らなくなる」と。生まれてからずっとスズメを見てきたクジャクだからこそ、スズメの人生に対するモチベーションの変化を敏感に感じ取ったのだ。
スズメはスパイの仕事を引き受けることで、人生に「目的意識」と、それに伴う「緊張感」を得た。そして、いつも自分を見てくれている深い深い友情があることも知った。スパイと行動を共にするうち、むかし憧れていた男にも自分と同じだけの時間が流れていることを実感し、過去を消化することもできた。そして「亀に餌を与えるだけ」だった彼女の人生は、能動的に転がり始める。
亀は地上を歩けば鈍重だが、水に入ると意外に速く泳ぐ。同様に人間も、自分の人生に目的意識さえ持っていれば、積極的に人生を楽しむことができるはずだ。だから、亀は亀のままでいいし、人間もそのままでいい。そのままでも、変なパーマなんてかけなくても、気の持ちようひとつで、あなたはあなたの人生をいくらでも輝かせることができるんだ。
『亀は意外と速く泳ぐ』は、そういう映画だと思う。
そんな風にトコトン真面目に見るような作品じゃないことは百も承知だが、「ギャグセンスを受け付けるか否か」だけで三木聡という作家が語られてしまうのでは、あまりにももったいないだしょ。
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