[コメント] 犬神家の一族(2006/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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そもそも市川崑はセルフリメイクの多い監督である。
広く世界の映画に目を向けても、セルフリメイク作品は(珍しくはないが)そう多くない。 市川崑自身、過去に『ビルマの竪琴』をセルフリメイクし、テレビドラマだが『黒い十人の女』もセルフリメイクしている。 自作以外にもテレビで小津『東京物語』、伊丹万作『赤西蠣太』、山中貞雄『盤嶽の一生』などもリメイクしており、世界に類を見ないリメイク好き監督なのである。
ただでさえ多作の上にリメイク作やテレビ作品も多い市川崑は、その多種多様なキャリアの中でも金田一シリーズは大変お気に入りだったようだ。 まるでセルフパロディーだった『天河伝説殺人事件』、トヨエツ版金田一『八つ墓村』と繰り返してきた。だがイマイチしっくりこない(と監督自身が思ったかどうか知らないが)。ならいっそ、「我ながらよくできた」犬神家をそのままリメイクしてみようということになったのだ(<勝手な推測)。
さらに勝手な裏事情を推測すれば、市川崑の成功作と呼べるもの(その数はどの監督よりも多い)のほとんどは、夫人和田夏十脚本作なのである。唯一、和田夏十脚本でない成功作が一連の金田一物である(この時期夫人は病に伏せていたという)。 そして市川崑自身がミステリーファンであること(自身のペンネームが久里子亭(クリスティー)だもんね)、落語に見る「同じ話のブラッシュアップ」に興味を持っていることも重なる。
そんな市川崑が世に送りだした「映画ファンのトラウマ」(byぴあ)76年版『犬神家の一族』は、金田一耕助を明智小五郎より有名にした。 しかし、あの時の流麗でショッキングなカット割は戻ってこなかった。当り前だ。
だってジイサンなんだもん。
だいたいねえ、年寄りってのはテンポのろいの。しょーがねーじゃん。91歳だよ91歳。
で、まあ、テンポがのろいのは目ぇつぶったとして、それでもやっぱり失敗だったと思う理由は、実は石坂浩二にあると思う。
基本的に市川崑映画の主人公の男達は“風”なのである。 黒澤明の男くさい主人公達とは対照的な、どこか頼りない風来坊の「中性的」(by岩井俊二)な男達なのだ。 『ぼんち』の市川雷蔵も『黒い十人の女』の船越英二(その役名はずばり“風”)も、そして石坂金田一も、体臭のしない風の様な男なのだ(実際金田一はどこからかやってきてどこかへ去っていくパターンを繰り返す)。これは市川崑が女ばかりの家族の中で育ったことが影響しているそうだが、この際それは置いておこう。
問題は、石坂浩二に風格が出てしまったことにある。 “風”というにはトヨエツは艶っぽすぎたが、今回はドッシリしすぎた。しかしそれも当り前だ。
だってオッサンなんだもん。
65歳だよ65歳。だいたいねえ、30年前に一度経験してるんだから、最後の煙草くらい止めなさいよ。いつまでも「しまったぁぁぁ!」とか言ってる年齢じゃないって。
こうして、この映画から76年版を思い起こすと気付くことがある。 傑作映画というものは、監督、脚本、役者、撮影、その他諸々、「恐ろしい偶然の集積」で発生するものなのだということを。
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