ぞくぞくする設定の中、経緯の説明を後回しにしてスミスの日常描写が綴られていく序盤は、説得力がある。肉体の鍛錬に勤しみ、銃器を握り白衣も着る彼が狂人に見えないのも、スミスの人好きのするキャラクターのお陰だろう。

彼のフィジカルを生かした宙吊りからの脱出は骨太のアクションで、伴侶の愛犬を映す視点カメラもいい。帯状の夕陽が刻むスリリングな展開も気に入った。最初の接近遭遇も含め、ホラー寄りのサプライズ演出は見どころだが、中盤以降の複数が動くスタントとなるとどうも精彩に欠ける。

音楽を極力控えた雰囲気作りはよく、生存者親子との言葉少なげな朝の風情はヨーロッパ映画のよう。「シュレック」で和み、ボブ・マーリーで会話の糸口を掴む流れはうまく、終盤に期待を持ったのだが、そこは大きく裏切られた。

総力戦でスミスの居場所を襲うダーク・シーカーズの目的は、拉致された女を救うためではないのか。スミスと同じ手口の罠を仕掛けたあの男の、憎しみに満ちた形相は、てっきり、愛する女を奪われたゆえだと思っていた。スミスがフラッシュバックした妻と娘の姿は、彼にそのことを気付かせた、だからガラス越しに、あの女の様子を見せるのか、と思っていたら。

シャマランじゃあるまいし、最後の最後に神の啓示はないだろう。たとえ「生き残りの村」がなかったとしても、ここに健康な男と女がいる、育てるべき少年もいる、ニューヨークに村を作ればいいではないか。そんな科学者らしい理性を働かせて欲しかったのに、自爆とは。ラストシーンは、ああスティーブン・キングだね、という程度の感想で終わってしまった。