[コメント] 万引き家族(2018/日)
やっぱり賞取り映画らしい刺激の無さかと思いきや、しかし中盤からは、良くなる。特に、夏になって、祥太とリン(ユリ、ジュリ)の蝉採りが描かれるあたりから、この2人が出てくると、ホッとさせられる。また、夏のシーンでは、海水浴の場面も印象深いが、ソーメンと通り雨のシーンや、音しか聞こえない隅田川の打ち上げ花火を皆で見る縁側の場面など、良いシーンが目白押しだ。リリー・フランキーと安藤サクラがソーメンを食べるシーンは、ソーメンの鉢を2人でつついている、ということ自体がもう暗喩だが、安藤の振る舞いと、そのカッティングは絶品。また、花火を皆で見る縁側の場面では、いったん、俯瞰で全員を捉えた後、さらにカットを換えて、大俯瞰(ビル屋上レベル)になる。この視点移動は本作中白眉だろう。印象的な大俯瞰は、前半にも、スイミーとマグロの話をする祥太と治(フランキー)の場面で使われており、いずれも夜のカットである、という点は、撮影現場の苦労が思われる。
結局、リンは振り出しに戻ったかのようにも思えるが、ラストの視線の表すものを考えるなら、彼女の成長は明らかだと私は感じる。リンという名前を自分で選んだシーンは、その決然たる反応に驚いたが、他の登場人物も皆、自分で選ぶ、選んだ、というモチーフが、ラストまで一貫して描かれており、そういう意味で、本作は、曖昧ではあるが、力強さを感じる、ある種のハッピーエンディングと云っていいだろう。
些末過ぎて、どうでもいいと思われる話かもれないが、本作中、3回フェードアウトがある。1回目は、上に書いたスイミーとマグロの話をする2人の大俯瞰カット。2回目は縁側でリンを抱きしめる安藤サクラのカット。3回目は、ラスト近く、空き家になった家に戻って来た松岡茉優のカット。私はこれら3つとも、フェードアウトは不要と思う。こゝで場面転換に変化をつけたい、という編集者の生理をある程度納得するものの、映画の流れを途切れさせる、コブのようにひっかかりが残ると感じるのだ。
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