[コメント] 運び屋(2018/米)
しかし、カメラの視野の中にいながら現場をコントロールしていると感じられるのは、我々としても、見ていてとても安心でき、画面も安定して感じられる。ハロー効果的な認知バイアスであることも確かだろう。こゝ数本のように、「本当は、彼は現場にはいないんじゃないか」と不安に感じることは、少なくもないのだ。
それに、彼が出演することで、彼らしい老いの映画であり、老若男女、国籍人種を超えたチームワークと、「コミュニケーションと共感」の映画であることが際立つ効果も大きいと云えるだろう。
さて、少し具体的な演出の例を挙げると、まず、冒頭の彼のそっけない登場(デイリリーの温室のシーン)が、シーゲルぽくってとてもいい。こゝで既に復調を感じさせる。この後、あっという間に、唐突に18年後に飛ぶという潔い繋ぎもそう。あるいは、ハイウェイの撮り方は、道からティルトして車(おんぼろのフォード・ピックアップトラック及びリンカーン・マークLT)を映すか、空撮が導入部となる。これを何度も繰り返す。このあたりの「いい加減さ」も、鼻歌や替え歌のハミングと相まって、飄々としたキャラクター造型と、超然とした、諦観の境地を体現・定着する効果に繋がっている。
また、孫娘から元妻ダイアン・ウィーストが倒れたと連絡があり、駈けつけてからのシーンで見せる彼の顔がとてもいい。ベッドのウィーストと、かたわらで座っているイーストウッドの切り返し。このシーンが良いのは、ウィーストとの関係性の描写とともに、運び屋のスケジュールを大幅に逸脱する、という状況のハラハラ感と、図太い演出にゾクゾクするという部分も大きい。あるいは、メキシコに招待されたパーティ場面の演出が非常に若々しく、前作(『15時17分、パリ行き』)のアムステルダムのシーンを思い出させたのだが、これを見ると、彼の演出がまだまだ枯れていないことを納得し、とても嬉しくなった。そしてクライマックスでは、ブラッドリー・クーパーやマイケル・ペーニャが乗る救急車と、上空のヘリコプターを同一のフレームに収めたカットをきっちり決めてきて、「おゝやってくれるやん」と思っていると、さらに、リンカーン・マークLTとヘリコプターを同時に映したカットを繰り出してくるのだ。この連打は満足度が高い。
全体に、あまりに集大成的に良く出来ていて、これが遺作になるのではないかと心配になってしまう感覚もあるのだが、本作の若々しい演出を見る限り、まだまだ期待できるのではないかと思う。そう思いたい。
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