[コメント] 桜桃の味(1997/イラン)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
それで眠れぬ夜はベッドサイドに並べてある『徒然草』『エズラ・パウンド詩集』『星の王子さま』を引っ張り出して読み耽る。
それでも眠れぬ夜は、かつては『鬼火』、今はこの『桜桃の味』を観る。
そして、「もういっそ、死んでしまったら、楽になるかな」と、「魔の時」が訪れる。
でも、次の朝のあの甘く柔らかい蜂蜜バターとほろ苦く温かいコーヒーを味わう、ささやかだけど仕合わせな「再会」を思うと、このまま時が満ちてゆくのに身を任せ、眠りにつこうと思う。
そして、眠る。
この映画の主人公の日常はまったく描かれないし、なぜ自殺せねばならぬのか、事情はほとんど描かれない。
そして、思う。きっと彼も、「魔の時」を時々迎えてしまう僕のように、そうした他愛のない日常を繰り返す中で、「ココニイラレル喜び」なんて麻痺してしまって、知らず知らず、その繰り返しに自分が埋没しているような気がして、疲れきってしまったのだろうと。
だが、埋没しているのは自分じゃなく、自分自身がその喜びを埋没させているのだと、彼も僕も、あの老人に気づかされる。
「ささやかだけど大切なこと」、「つたないけれど大切なこと」。それが「桜桃の味」ではないだろうか。
とりとめもなく、そんな思いをめぐらせていたら、いつしか夢の中、目覚まし時計がなる。
そして、起きる。
僕はトーストとコーヒーに舌鼓を打つ。僕が大好きな、ジーン・スタッブズのある小説にある一節を暗誦しながら。
「台所のテーブルの上で朝の陽射しを浴びているミルク・カップの意味の、あの重さ」
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いや〜ぶっちゃけた話、朝飯がうまい、ってことは健康な印ッスよ!
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【元review】
確かに眠い。いや、寝るなというのが無理というものだ。白状しよう。この映画五度目の挑戦でようやくラストまで観た。
早送りしても、コマ送りしても、そうとは気付かない、変化に乏しい画面。「単純」で「素朴」で「自然」で「普通」で捉えどころがない登場人物と物語と風景。(天国って案外こんなところかもしれない。)
確かに、鑑賞後、何かこうジンワリと胸にこみ上げてくるものがあった。(ここでは、ラストの是非はとりあえず保留にして。)
一応、問題のメタ的ラストについて、『動くな、死ね、甦れ』のレビューで、少し触れているが、もう少し考えてから、ここに記してみたい。
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