[コメント] 交渉人 真下正義(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
「ねえ、誰が犯人だったの?」観終って開口一番、小学生の息子が私にたずねた。
「犯人が誰であるのか判らない」ということが、最も重要ことであるにもかかわらず、そのことを説得力を持って伝えきれなかったことが、この作品の最大の弱点である。
突如として警視庁のホームページというバーチャル空間に出現し、やがて膨大な過去の電子情報の中にその姿を垣間見せつつ、ついに生身をさらすことなく消え去る犯人からの、真下正義という個人に向けられる匿名の攻撃。
誰もが簡単にメディアを駆使し、情報を発信し得る社会。ある日突然、実体の見えぬ匿名の何者かからの誹謗・中傷攻撃が襲ってくる社会。そして、全ての人間が攻撃する側にも、また受ける側にも成りうる可能性を持つ危うい社会。
本作品が、今日的なテーマ性を獲得するとしたら、私達がそんな現代の「危うさ」と隣り合わせで暮らしている恐怖を描ききるところにあったはずだ。
だとしたら、犯人は自爆テロよろしく己の実体を誇示するかのように炎の中で行方をくらますのではなく、あくまでもバーチャルな存在であるかのように膨大な情報の彼方へと身を隠すようにまぎれ去るべきであった。
それでこそ、俯瞰される大都市東京、イブの宵の街中の奔走、そして地底深くで密かに、しかし激しく進行する知的攻防という物語の中に、顕示欲をめぐる「有名性」と「無名性」の対立という軸が一本貫かれたであろう。
随所に魅力的な描写が散りばめられ、特に地下鉄内での「クモEE4-600」をめぐる攻防はダイナミックかつスリリングで、邦画としては稀有の作品に成りうる可能性があっただけに惜しまれる。
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