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[コメント] 激突!(1971/米)

これが公開されたときから30年。スティーヴン・スピルバーグほど毀誉褒貶の激しい監督はいない。だが、彼がハリウッドを、ひいては映画界を今まで引っ張ってきたと言うのは紛れもない事実。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 そのスピルバーグの記念すべき劇場第一作目作品が本作。元々テレビムービーとして公開されたこの作品が映画界に与えた影響は大きく、後に映画用に編集し直されて劇場公開されたほど。彼の名前を華々しく輝かせることになった。

 この映画はもの凄い早撮りで作られ、予算的にもチープ。ストーリーそのものも、ただ意味もなくタンクローリーに追い回されるだけと言う極めて単純なもの。  こんなものが何で受けたのか?

 これは映画の本質そのものに関わる問題ではないかと私は思う。最初は映画というものは、記録用として使用されていたが、すぐに脚本が出来、出演者は演技をするようになった。映画は現実を映し出す鏡から、幻想世界を映し出す機能を持ち始めたのだ。以降映画を観るという行為は、その上映の間、自分がその作品の中に入り込み、その中で主人公と自らを同一化し、その間は夢心地となるために作られた。まさに快楽装置として映画は存在する

 つまり、映画の面白さは、映画上映の間、主人公と自分自身が同一化出来るかどうか。そこに懸かっている。どれほどセットがチープでも、ありそうもない話であっても、ただ一点、それが出来さえすれば、映画はとてつもなく面白いものとなる。

 で、この作品ほど、その一点のみを突き詰めた作品は珍しい。そこにはリアリティなどいらぬ。ただ、純然たる恐怖と、そして本当にある“かもしれない”出来事を見せつける。車という閉鎖空間、そして“何か”に追いかけられると言う恐怖。これは多くの人が見知った出来事だ。世界共通の「悪夢」とは、“何か得体の知れぬものに追いかけられる”。と言うものなのだから。

 後、この作品を成功させた要因としては車を上手く用いた事だろう。車というのは一種の閉鎖空間だから、恐怖を倍加させやすく、そこにスピードが加わるため、スリルはますます増す。更に巨大タンクローリーの乗務員は最後まで姿を見せない。もしどこかで姿を現していたら、きっとここまでの恐怖心は出せなかっただろう(イッちまった人間が出てきたら、心理ドラマになってしまう。ストーリーの純粋さに水を指す)。訳の分からない、無機的なタンクローリーが意味もなく追ってくる。恐怖というのは日常性にいくらでも潜んでるんだ。そう思わせることが出来たのが最大の勝因。たった一人に焦点を当てることによって、より感情移入をさせやすくしたのも良し!

(評価:★5)

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