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[コメント] 華氏911(2004/米)

問題提起から材料を提示して結論を導く説得力の強さと簡潔明瞭さに驚く。その冷静且つ明晰さ、それでいて人間味に溢れる姿勢に野球帽を脱帽。4.9点。
死ぬまでシネマ

摂氏;18世紀の瑞典人天文学者Anders Celsius(中国表記;摂爾修斯)の定めた温度基準

華氏;18世紀の独逸人物理学者Gabriel Daniel Fahrenheit(中国表記;華倫海)の定めた温度基準

列氏;18世紀の仏蘭西人物理学者R.A.Ferchault de Reaumurが定めた温度基準

(華氏温度) = 1.8 × (摂氏温度) + 32

華氏451』未来の恐怖政治を描くRay Bradbury原作のSF小説。451F°は焚書の温度(書物の自然発火点)。F. Truffautが1966年に映画化。

911;北米合州国(及び加州)ではAmbulance/Police/Fire Stationは全て電話番号911で要請する。日本の119と110。ジョン=ベルーシの弟であるジム=ベルーシの2000年の主演映画『K-911』(『K-9 友情に輝く星』の続編)も、110番に引っ掛けたものだろう。同時多発テロはこの数字を敢えて狙ったと云われている。

CinemaScapeへ来て、全くブッシュ或いは国際政治に興味が無かったり、或いはブッシュを支持するひとびとにとっては、また或いはそれ以外でも(タイミングが悪かったのか)、この映画は最初から酷く唐突で強引に映ったらしいことを知った。はっきりとした主張を持っているだけに、幾ら優秀な作品でも反発を受けることは避けられない。

それでも、この作品は現実世界を扱おうとする映像作家に間違いなく勇気を与えただろう。皆がムーアと同じ手法を取るとは(そして取りたいとは)思えないが、この作品は確かに今までに無いドキュメンタリーの可能性を示した。どの作品よりも感動したから、そしてこれからの映像作家のためにも、と考えたのだろう、パルムドールを与えたカンヌの見識を讃えたい。

余計な先入観を持たずにありのままの現実を冷徹に見据えることは、ジャーナリズムの基本ではあるが、その根底にはもっと大切なものが必要であり、それは一貫した方向性と情熱だ。戦時翼賛体制から解放されて公正・中立から始まったのが日本の戦後ジャーナリズムだが、だからこそ、その後の長い試行錯誤の中で中立な報道などこの世に存在しないことを学び直した。この作品に対する偏向批判はそうした歴史への無知を曝すことになるだろう。ただ、そこには訴求力と説得力が求められる。それを備えた優秀な報道が少なかったために、日本人は相対主義から無関心へと社会的関心(政治的情熱)を失っていった。この作品に刺戟され、日本で新しい作品が出現することを熱望する。

(評価:★5)

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