[コメント] スチームボーイ(2004/日)
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こんなコトは初めてなのだけれど、この映画の観どころであるのだろう「スチーム城」の崩壊シーンで眠気を誘われてしまった。そして気づいた、俺はもうこの手の大規模災害を描くアニメに、ほんとうに決別したくなってしまったのだな、と。スチームボールなるものは、蒸気機関時代の原子力であり、絶対に、平和利用でさえもされてはいけないものらしい。だが、この物語はその理由を詳しく語ってくれない。単に「悪事に利用するであろう連中があとを絶たない」という根拠薄弱な理由からだけだ。そしてその理由を裏付けするそのためだけに、英米の抗争をスペクタクル的に描いてみせる。実に退屈だ。
退屈な理由は、実は初めて子供向け映画を撮ったように思える大友の失策からに他ならない。つまり、冒険ドラマに不可欠な味付けをする人間描写があまりに薄っぺらだからだ。レイはこの手のドラマにありがちな勇気はあっても融通のきかない熱血少年だ。これはまあ、仕方ない。モノとしての「主人公」であるスチームボールが絶対悪であるために、主人公は何がなんでもこれを憎む少年でなければならない。「無謀と思える夢に賭けた人間たちがいたこと(大友自らの言葉)」をのきなみ否定しまくっても、スチームボールを「悪魔の発明」にしてしまわなければ気がすまない…。それが平和を乱すモノだから。でもそれが、おじいちゃんからの受け売りであるあたりに、レイの薄さがある。
他方、スカーレットは最後まで変な性格をした一時的な仲間であり、レイと心を通い合わせることはない。これは長い間青年まんがを自分の舞台としてきた大友であるがゆえの失策である。確かに青年まんがならそれでいいのだが、子供向けアニメとした場合、この仲間意識の薄さは感情移入を阻む何よりの原因になってしまう。爺さんや父さんも、ステロタイプな性格で孫ないし息子とのかかわりは希薄である。彼らとレイのあいだには弾けるような嬉しさも、思いがけず流される涙もない。こういった要素は邦画ならではの低劣な感情表現と誤解しているふしさえ見受けられる。崩壊したスチーム城に「どうせ生きているに決まってる」と祖父や父を探しにすら行かないレイは、とても子供たちの共感を呼ぶとは思えない(いや、死んでたとしてもゲーム感覚でリセットすればいいや、と考えるだろうか?)。
結局、この作品の出来は本来なら今夏のライバルになる筈だった、ジブリ映画を盛りたてることになるだろう。自分はジブリのファンではないのだが(特にここ10年くらいの作品には嫌悪感すら抱いている)、例えば宮崎駿がスカーレットを描いたら、ロイドを描いたらこれくらい魅力的になるだろうとは容易に想像することができる。そのあたりが長年子供アニメばかり創ってきた人たちの強さであり、同時に大友の弱点であるとも思う。
大友の年齢を考えれば、まだまだ無謀なチャレンジはできる年齢ではあるだろう。だが彼にはもう一作ぐらい青年向けの作品を撮ってもらいたい。そして、その中で今作の失敗の打破を模索してもらいたい。と、これは漫画家・大友のファンからのお願いである。
付記。鈴木杏の演技力の確かさを再確認。声優としても合格点である。
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