コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)

宮崎駿の、老いへの恐怖が透けて見える。(2008/07)
秦野さくら

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人は、必ず老いる。天才と呼ばれた人にも、私のような凡人にも、必ず老いは訪れる。

老いれば足腰が弱り、歩けなくなることもある。そして、そうなってしまうと、<二度と>、若い頃のようには野原を駆け回れないだろう。

…という、そんな当たり前の現実を、今日ほどリアルに感じたことは無かった。この映画が、“車椅子の老人達が、元気な足を取り戻す”という、希望に満ちた内容だったにもかかわらず、だ。そうだよな…そんなことは、“人魚が魔法によって足を得る”くらいの奇跡が起きなければ叶わないんだよな…。

もしかしたら宮崎氏はこの映画を“希望”としてつくっているのかもしれない。しかし、私には逆に、氏の中にある老いへの恐怖、絶望の裏返しに見えた。抗おうとしている人の本心を垣間見てしまった気がした。

宮崎氏の中で、「見せたいストーリー(画)」と「見せなければならないストーリー(画)」が作っているうちにごちゃごちゃになってしまったのだろう、結果、要素が詰め込まれすぎて、「ハウルの動く城」と同様、ストーリーが破綻してしまっている。たくさんの設定が振られているが、回収できずに意味不明に終わってしまっている。盛り上がるはずの、“試される男の子”と“ポニョの決断”もまったく中途半端。なぜなら、2人とも最初から迷いがないからだ。そもそも、ポニョには魔法を使っている自覚が無い(父親談)のだから迷いようが無い。迷いを作らないなら、何のために選択のシーンを作るのか。結果、話に引き込まれない。

「ハウルの動く城」のときも書いたが、かつての宮崎作品にはこんなことは無かった。やりたいシーン、描きたい画を作るために、全体のバランスを崩してしまう人では無かった。(「ハウル」発表後、「あえてストーリーの作り込みを緩くした」というようなことをインタビューで話していたようだが、もはや2作続くと言い訳としか取れない。)やはり、宮崎氏にも老いによる衰え(もしくは加齢による弊害)は着実に訪れているのだろう、と、思わざるを得なかった。

だが、「ハウルの動く城」では大いに覚えた反感も、この映画ではさほど感じなかった。そうなんだ、天才だって老いるのだ。それに、天才だって老いるのが怖いのだ。

それならそれで、私も、老いた宮崎氏を受け止め、今の氏にしか作れない映画を楽しもうと思う。それに付き合うのも一興だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (14 人)代参の男[*] 煽尼采[*] づん[*] Sungoo[*] ペペロンチーノ[*] stag-B TM[*] ヒエロ[*] 夢ギドラ[*] SUM[*] IN4MATION[*] サイモン64[*] kiona[*] 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。