[コメント] 崖の上のポニョ(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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人は、必ず老いる。天才と呼ばれた人にも、私のような凡人にも、必ず老いは訪れる。
老いれば足腰が弱り、歩けなくなることもある。そして、そうなってしまうと、<二度と>、若い頃のようには野原を駆け回れないだろう。
…という、そんな当たり前の現実を、今日ほどリアルに感じたことは無かった。この映画が、“車椅子の老人達が、元気な足を取り戻す”という、希望に満ちた内容だったにもかかわらず、だ。そうだよな…そんなことは、“人魚が魔法によって足を得る”くらいの奇跡が起きなければ叶わないんだよな…。
もしかしたら宮崎氏はこの映画を“希望”としてつくっているのかもしれない。しかし、私には逆に、氏の中にある老いへの恐怖、絶望の裏返しに見えた。抗おうとしている人の本心を垣間見てしまった気がした。
宮崎氏の中で、「見せたいストーリー(画)」と「見せなければならないストーリー(画)」が作っているうちにごちゃごちゃになってしまったのだろう、結果、要素が詰め込まれすぎて、「ハウルの動く城」と同様、ストーリーが破綻してしまっている。たくさんの設定が振られているが、回収できずに意味不明に終わってしまっている。盛り上がるはずの、“試される男の子”と“ポニョの決断”もまったく中途半端。なぜなら、2人とも最初から迷いがないからだ。そもそも、ポニョには魔法を使っている自覚が無い(父親談)のだから迷いようが無い。迷いを作らないなら、何のために選択のシーンを作るのか。結果、話に引き込まれない。
「ハウルの動く城」のときも書いたが、かつての宮崎作品にはこんなことは無かった。やりたいシーン、描きたい画を作るために、全体のバランスを崩してしまう人では無かった。(「ハウル」発表後、「あえてストーリーの作り込みを緩くした」というようなことをインタビューで話していたようだが、もはや2作続くと言い訳としか取れない。)やはり、宮崎氏にも老いによる衰え(もしくは加齢による弊害)は着実に訪れているのだろう、と、思わざるを得なかった。
だが、「ハウルの動く城」では大いに覚えた反感も、この映画ではさほど感じなかった。そうなんだ、天才だって老いるのだ。それに、天才だって老いるのが怖いのだ。
それならそれで、私も、老いた宮崎氏を受け止め、今の氏にしか作れない映画を楽しもうと思う。それに付き合うのも一興だ。
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