[コメント] 乱れる(1964/日)
これは日本映画史上最高の突き放し。ここまで人間を突き放して描いた成瀬巳喜男の演出に徹底的に打ちのめされる。これに比肩しうるのは、フォード『荒野の女たち』やアルドリッチの『キッスで殺せ』(オリジナル版)ぐらいだろう。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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「もうこの映画は終わらなければいい」と思いながら見る映画だ。
演出で観客の心を揺さぶる術がこれだ。監督の手腕とはこのことだろう。最高に繊細な演出。特に室内の高峰秀子の描き方。家の各部屋の蛍光灯を消して歩くシーンのフィルムの手触りはどうだ。二度ある、加山との電話のシーンで見せる高峰秀子の思い詰めた表情、その視線の演出のたまらなさ!この電話のシーンは泣けて泣けて仕方がない。
停車中の汽車の窓を挟んで加山と高峰の視線を演出したシーンも辛くなるほど胸締め付けられる。
ラストの突き放しは、日本映画史上最高の突き放しではないか。それは、加山が唐突に死んでしまう、というストーリ的な帰結のことを指しているのではない。このような、主人公のとってつけたような死でエンディングをむかえる展開については私も普通なら大嫌いなのだが、この成瀬の演出の峻厳さには戦慄を覚える。それは、彼の死が事故なのか自殺なのか示されないという冷徹さもあるけれど、何よりも、「高峰の側にずっといたい」と願っていた加山の死体が山の道をどんどんどんどん離れていくその描写に背筋が凍る。ここまで人間を突き放して描いた演出に徹底的に打ちのめされる。ラストの高峰のアップカット!
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