[コメント] ディア・ハンター(1978/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
しかし全体の印象として驚いたのは随分完成度が低い、ということだ。寸分のスキもない映画を人は愛することができない。だからこの映画は人気があるのかも知れない。
鉄鋼の町がジョン・フォードの『我が谷は緑なりき』の炭坑の町、町並みとよく比較されたのだが、私はこの描き方に関していささか失望した。フォードとは比べものにならない。鹿狩りのシーンについても少々失望した。変な荘厳さを出す必要も無いと思う。もっとハンティング・シーンを見たかった。山本周五郎の「樅の木は残った」の狩りの描写を期待していたのかも知れない。しかし鹿狩りシーンでハワード・ホークスの『ヨーク軍曹』が去来した。確かにこの映画は『ヨーク軍曹』だ。
映画を見ていて本当に愉快な瞬間とは、あのボーリング場でピンを立てる機械に挟まってしまう素敵なアイデアにぶつかった時や、ロバート・デ・ニーロが帰還してスーパーマーケットのオバサンにキスされるシーンがそうだと思う。あゝいう部分こそ映画の、一つの映画の真のチャームポイントだと思う。あゝいうディテールがあるから人は映画を愛せるのだ。
ラストでマイケル・チミノはどういう考えで「国家」ということで締めたのだろう。それはフォードのある種の映画のように国粋的には到底感じられないし、アメリカという部分で締めくくることがロシア系アメリカ人のベトナムというものを考えさせるには一番厚みを出せるという打算が見え隠れもする。たゞの青春映画にはしたくない、というところだろう。しかしこの映画はたゞの青春映画として最も輝いている。何しろ伏線がいっぱいあって魅力的な映画なのだから!
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