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[コメント] 海の上のピアニスト(1998/伊)

映画というのは,必ずしも万人が納得するラストを用意してくれているとは限らない,ということを肝に銘じるべきかもしれませんね.すべての人が己の納得いく人生を送っているわけではないのと同様に.とにかくこれだけのスケールで描ききった作り手に対し★4!
じぇる

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







<以下 2002 Jan.11にアルシュ様に送った書簡の内容>

見ている際にも気になったのですが,衝撃的なラストのせいでうっかり忘れていました.しかし最近になってまた「あれ,ちょっと待てよ」と思うようになったのです.まず,その疑問とは,マックスが最後に機関室で出会った1900は本当に1900だったのか?ということです.おかしいと思う点は1900のいで立ちです.今にも沈みそうな錆びた廃船にまっ白いタキシード,無精ひげが伸びるわけでもなく,以前のようにピシッとしている1900.一方のマックスは頭も薄くなっているのに.そもそもあれだけオンボロ廃船に何故ただ一人残っていられたのでしょうか?それぐらいのことは作り手だって容易に考えるはずですよね.第一なにを食べていたのでしょう?

一つ疑問が浮かぶと次々に気になることが現れてきます.マックスは「1900の存在は誰にも知られていないから」と言って船の解体を止めようとします.しかしそんなことがあるのでしょうか?ジャズの生みの親であるジェリー・モールトンまでうち負かし,新聞にも広く取り上げられたはず.船のスタッフだって大勢いたはずだから「誰も知らない」なんてことが本当にあり得るのでしょうか?

ここでようやく大事なことに気が付きました.この映画,原題は

La Leggenda Del Pianista Sull'oceano

なのでした.La Leggenda,つまり「海の上のピアニストの『伝説』」なんですね.『伝説』は人づてに語り伝えられるものですから,およそ客観的な史実ではありません.この映画において1900のストーリーはすべて友人マックスによって語られています.つまりはすべてマックスの視点から描かれた“寓話”なのですね.

あくまでも一人の語り部が語っているのだ,と言うことを心にとどめて見るべき有名な映画に『アマデウス』があげられると思います.この映画で描かれるモーツアルトはすべてサリエリが見て,感じたモーツアルトです.そして最後の最後に語り部であるサリエリは精神異常になっている(あるいはそう見なされている)ことが明らかになるのです.見る側の我々はそこでそれまでに見た2時間何分かのストーリーをどう解釈すべきなのでしょうか?「サリエリはモーツアルトを殺したのは自分だという罪の意識からおかしくなった.したがって彼の語ったことはすべてそれ以前のことだから正しい」と安直に言えるのでしょうか?

海の上のピアニスト』にも同じ見方が当てはまるとは思いませんか?何もマックスが精神異常だとは言いませんが,頭も禿げ,食うに食われぬ状態になっている人物にひとつの『伝説』を語らせたトルナトーレさんの真意はいったい何なのでしょう?

マックスが最後に機関室で出会った1900はもしかするとマックスにしか見えていなかったのかもしれません.もっと言えば,ひょっとすると1900自体がマックスの中にしかいなかったのかもしれません.ともかく,明らかなことはただひとつ,

「マックスにとっての1900はヴァージニアン号の想い出とともに永遠となった」

ということでしょうか.

こう考えるとこの映画,あちらこちらに細かい仕掛けがあったような気がしてくるのです.1900に初めて「オンガク」という言葉を伝えた謎の日本人女性,「海の声」を聞いた農夫とその娘などなど・・・.そして1900のストーリーの真偽のヒントは当然,彼の記憶と現実が交錯する楽器屋のシーンに隠されているはずです.もちろん推理ドラマではありませんから,寓話として素直に受け止めればいいだけかもしれません.しかし,やはり思わせぶりな演出が目に付くのも事実です.これはまたじっくり見てみないといけない気がします.トルナトーレさん,まったくすごい映画を作ってくれたものです.これは実はものすごく良くできた映画ではないかと思いはじめました.

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<2002 Mar. 18に思うこと> 上記の文章をアルシュ様に見ていただいたところ,「トルナトーレは底の浅い監督だから気にするな」のような返事を返されてしまい少しショゲていましたが, しばらくこの映画のことを忘れている間にTAKAどぅ〜様が私と同様な疑問を抱いているのに気づき,クスッと笑ってしまいました.上の文章はずいぶん長い間メールボックスに眠らせていましたが,そんなわけもあり思い切って公開しました.どうでしょう皆さん,これは冷静に考えればただの寓話ですが,もしかしたらあるかも知れない隠された「仕掛け」を探してみませんか.

(評価:★4)

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