[コメント] アメリ(2001/仏)
『アメリ』は僕にとっては、21世紀のMGMミュージカルだった。
MGM黄金時代、ミュージカルという様式は、大半が現実社会を舞台としながら、「そんなところで歌ったり踊り出したりするヤツいるかっつーの」とツッコミが入るような演出によって、明確に「これはファンタジーである」と規定した上で、ソフトな勧善懲悪・いい人だらけの社会・きれい事で埋め尽くされた恋愛物語…といった絵空事を描いた。 観客は安心してリアリティのかけらもない世界に身を預けることができた(のだと思う)。 公開当時、MGMミュージカル群は、正真正銘「幸せになる映画」だったのだ。
現代の我々が、『巴里のアメリカ人』や『リリー』を観てもその幸福感は再生されない。 その脳天気な世界観を楽しみ“古き良き時代”に思いをはせることはできても、残念ながらその時代の観客が観た夢を同じように味わうことはできないし、ましてやミュージカル形式の新作は現代の文脈の中でしか鑑賞することはできない。 「当時の人たちはどれほどの幸福感を映画館で手に入れたのだろう」…それを知ることはかなわぬはずの願望だったのだ。
『アメリ』はミュージカルではないけれど、いかにも今日的な演出を駆使して、現代の日常の物語を完全なる「絵空事」として描いてくれた。 そして僕はたしかに幸せになった。 劇場に行く前にはもちろんそんな期待など微塵もなかったけれど、全く別の触感の作品を通して、僕は体験してみたかった「その感覚」を味わうことができたのかも知れない。
これから20年、30年経った時にこの作品を見た人たちは、やはりこの映画を陳腐に感じるかも知れないし、「21世紀初頭の人たちがこの映画を観て幸せになったこと」について実感はできないだろう。 それでいいのだ。 今という時代の中で、この映画を無批判に楽しむことができる自分の「勝ち」なのだと思う。
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