[コメント] ブラックホーク・ダウン(2001/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
これは史実を元にした戦争映画。ハリウッドは第二次世界大戦やヴェトナム戦争についていくつもの映画を作っているが、こんな近い時代の、しかも失敗した作戦を克明に描いたのは初めての試み。
ソマリアでの内戦は、そもそもアメリカが隣国のエティオピアのように共産化しないようにと隣国のソマリアに資金供与し続けたことがそもそもの発端。政府のみならず強いリーダ・シップを持ち、しかも強力な力を持つ民族主義者がその候補に選ばれ、共産主義の防波堤とすべくアメリカは彼らを全面的に援助していた。それが1991年のソ連崩壊によって、戦略上のメリットが薄くなりぱたりと資金供与を止めてしまったため、弱体化した政府に替わるように、今まで資金供与を受けていた民族主義者が台頭してきたわけである。実はアフガニスタンのタリバーンの発生もこれと同じ。
自分で内戦を煽っておいて、それが手に負えなくなると国連に任せ、それで勝手に自分で極秘の特殊作戦を行って失敗した。ある意味アメリカという国の近年まれにみる最大の失敗劇でもあった。この当時、まだインターネットが普及していない時代のため、テレビや新聞でしかそのことについて知る手だてが無く、テレビにかじり付くようにしていたっけ。
そんなものを映画化しようというのだ。韜晦の嵐になるんじゃないかな?とか思いつつも、それでもリドリー=スコット監督作品は好きだし、何せ出演キャラクターが良い。結構期待感はあった。
予告を観ると、墜落するブラックホーク、うなりをあげて襲ってくるRPG、兵士達の友情などなど、盛り上がりのシーン満載。これは結構期待できるかも。
だけど何より期待したのは夜の濡れた町並みを幻想的に撮る名手スコット監督が昼の、しかも砂埃の舞う町並みをどう撮ってくれるか、と言う些か的はずれな部分だった。
結果的に言うと、撮影は見事だった。監督お得意のロー・アングルからの背景描写は昼の、埃っぽい町並みでも充分に有効。それにエッジを効かせたり、逆にぼけさせたりして面白い効果を作ることで、現実の目の前にある事実を、まるで悪夢のような、現実味を欠いた町並みに変容させているのは実に上手いところ。本領発揮とも言える夜のシーンでの暗闇に踊る光の乱舞は本当に綺麗(コンピュータ処理がなされているんだろうが、画面の粒子を荒くすることで、「混乱」及び「非現実感」がこんなに強調できるものだとは思わなかったよ)。コンクリートの固まりが吹き飛び、その破片が飛び散る描写も良い。
又、この映画は戦闘シーンが実に1時間半に渡って続けられているのだが、これくらい長いと普通刺激に慣れてだれてくるはずなのに、それがない。戦闘の中にあっても微妙な緩急の付け方が出来ている証拠。映像として見る限り、かなり質は高いし、私はあまり銃器類に詳しくないので、その辺の不満もなし。ただ、ソマリアの民兵が使っている武器の多くはアメリカ製のはずなのだが、それが確認できなかったのは残念だった位。
ただ、いくら映像技術が高くても、ストーリーはほとんど無きが如し。喋るより叫ぶ方が多い台詞の数々。平行して出てくる画面のほとんど全部が戦闘シーンなので、メリハリもあまり感じられない。
そして最後に思い切り脱力した「何故戦争に行くのか」の理論…
「そこに仲間がいるからだ」。そう。近代の戦争の全てはそれが理由だったのだよ。内実はどうあれ、戦争を始める理由は、「同胞を助ける」が常套文句なんだ。これはスコット監督流の皮肉なのか、それとも本気で言ったのか…
結構評するのが難しい作品になってしまったので、取り敢えず★3。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (16 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。