[コメント] ハッシュ!(2001/日)
僕は、橋口亮輔の前二作が大嫌いだ。いちいち確認はしてないが、★1と★2付けてると思う。
それは、極めて自然主義的な、安直リアリズム的な、あの作り上げられた《作り上げられていない》“間”が、たまらなく作為的で、厭らしくて、ヌルくて、ヌメヌメしたものに感じられて、その「風景」の手放し方が傲慢で独り善がりに思えて、どうにもこうにも我慢ならなかったからだ。
そして、前作から六年の歳月が流れ、満を期しての本作『ハッシュ!』。こんな、素晴らしい風景にめぐりあえるとは、予想だにしていなかった。
橋口氏が、この六年間、いかにその目で風景を、人間を見つめてきたか、それを大切にひとつひとつ自分の世界に消化していったかが、この映画を見れば、よくわかるし、セリフや仕草、そして印象的なシーンのひとつひとつに顕れている。人間に対する、世界に対する、そのまなざしは、やわらかく、慈しみに満ちつつ、同時に“地に足の着いた”希望にあふれている。
特筆すべきなのは、そして皮肉なのは、女優陣の輝きぶりだ。またもや、ペペロンチーノ氏に先を越されたが、片岡礼子、秋野暢子、冨士眞奈美、いずれも、心のひだを“見せすぎず”に見せる名演。特に片岡礼子の、生身の人間としか思えない、これが実際の彼女としか思えない、桃井かおりを越えた演技はお見事。
それに引き換え、高橋和也はひとり浮いていた気がする。ああいう、少し“オネエ”の入ったゲイ・キャラクターは、確かに“オネエ”であることは「演じている」という意識が少なからずあるのだから、好意的に見ればリアルではあるが、どうもステロタイプの域を越えていない気がする。反面、田辺誠一の複雑なキャラクターは、これまでの欧米を含めたゲイ映画において、最も人間味あふれる、最も日常的な、最も興味をそそられるキャラクターであったと思う。
自分がこれまでどんな世界を見てきたのか、味わってきたのか。これまでどんな人間とめぐり会い、触れ合い、そして別れてきたのか。偉そうに聞こえるかもしれないが、その成長ぶりが如実に顕れた佳作。
ただ、そのすべてを見せようとして、詰め込みすぎた感があり、手を広げすぎて、焦点が主役三人からぼやけ、滲んでしまったのも事実。そして、ラスト近くの河原シーンにも、悪癖の“間”が少しあった気がするが、まあ、あれはあれで良しとしよう。
そして、次作こそが、この橋口監督の勝負作となるだろうと、いつになく偉そうなサイマフは予言する。「フウケイ」は「風景」になった。次は、「ニチジョウ」を「日常」に昇華してほしい。願わくば、小津安二郎のように。
なんだかんだ言ったが、いい。この映画はいい。
[with sensei/4.28.02/梅田ガーデン・シネマ]■[review:4.29.02up]
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (17 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。