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[コメント] ターミネーター3(2003/米)

T2との比較論。殺人マシーンの追求に関して言えば、T3はT1、T2から独立したアイデンティティを獲得しえていない。だが、T2が挟殺してしまったT1の潜在的テーマを拾い上げ、ターミネーターという存在に新たな息吹を与えた。
kiona

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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自身の存在に人間を必要とする限りにあって体制の暗喩たるマトリックスという「マシーン」と異なり、人間をターミネイトせんとするのみのスカイネットという「マシーン」はマシーン以外の何ものでもなく、シリーズは哲学や政治をめぐる深い考察は当初から内包していなかった。あったのは、「このままじゃ、俺達の世界は機械に乗っ取られて破滅だ、バカヤロー!!」という、ちいとばかし早すぎた−事実の警鐘−のみである。T3は、この潔いSF魂を大切にしつつ、T1とT2の中盤までが描き、T2の結末が蔑ろにしてしまった「運命の重さ」というテーマをすくい上げてみせた。

確かに、T−XはT800、T1000をごた混ぜに焼き回し、およそB級の域を出ていない発想のオプションを付し、お色気でパッケージングしただけのポンコツだ。アクションもストーリーも忠実なまでに前作までを踏襲して成り立つ代物に過ぎないように見えるのだが、それだけでは決してない。

まず、このT−850は、T2のT−800とはまったくの別物だ。T−850は、T−800に対するジョン・コナーの思い入れを逆手にとって製造された「他人」であり、T−800のジョンに対する感情を否定することで、ターミネーターという存在を再定義する。T−800のように主従関係を愛情にすり替えることなく、最後まで一定の距離をおき、そしてクライマックスはジョンを欺くことで己の使命のみを全うする。

ここはとても重要だ。「愛を持っているかどうか」で生命と機械を紋切りしてしまうT2の結論はくだらないし、そんなターミネーターのアイデンティティはつまらない。愛というポジティブなモチーフではなく、命令というネガティブなモチーフで動き、そのために(逆説的に)嘘といった人間の多様性を獲得していく――たまらないではないか? あるいは年老いたターミネーターの背中だからこそ表現しえた哀感と感じた。

そう考えると、ケツを蹴っ飛ばされる側の造形も、キャスティングを含めて適格だった。T2のラストの甘さそのままに運命から逃げ惑う盆暗ジョンが、「俺の望む男ではなかった」と機械に小突かれ、また未来の嫁に罵られ、あの場所にたどり着く。しかし「未来を変える」ために辿り着いたその場所は、「未来を受け入れる」ための場所だった。

このT2を覆し、T1に原点回帰する展開! そこに辿り着いたどこにでもいる若者に過ぎないジョン(ニック・スタール)とケイト(クレア・デーンズ)が驚愕と絶望に打ちひしがれつつも、自分を求める声を聞きながら、未来に追いつかれたことを悟り、運命を受け入れる、あのシークエンスの肩を寄せ合う二人の表情!T−800が肩代わりしてくれた「運命の重さ」を今度は自分達が分かち合う――苦汁と、T−850に叩き込まれた「戦わねばならない」という覚悟と、二人でいられるというささやかな甘さと。

こんなラストに感動できないなんて勿体ないとしか言いようがない!

(評価:★4)

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