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[コメント] シン・ゴジラ(2016/日)

こういう規模の企画を一本の映画としてまとめ上げ、なおかつ興行的にも成功させる、庵野秀明という人は映画監督である前に一流の映画プロデューサーなのだろう。この映画最大の不幸は田中友幸円谷英二に当たる人物はいても本多猪四郎が不在という点である。いびつな映画だが『真昼の決闘』を見た人間が『リオ・ブラボー』を作ったような事態が起きることを期待し、この映画の成功自体は大いに歓迎する。
Sigenoriyuki

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







編集は岡本喜八でカメラアングルは実相時昭雄庵野秀明という人がこういうことしかできないということはあらかじめ予想できたことだし、そもそも岡本喜八実相時昭雄両名とも苦手な監督であると言ってしまえばそれまでだが、脚本の時点で十分面白いと確信できたならもうちょっと普通に撮れなかったものか。例えば国連軍による核攻撃が決定した直後の長谷川博己石原さとみの会話においてカメラが徐々に二人から離れ上昇していく場面があるが、これが映画的なエモーションを起こしているとは思えない、とても素人っぽい演出だと思う。また編集は岡本喜八というよりむしろ原田眞人の『日本のいちばん長い日』のそれに近い。(ちなみに岡本喜八作品で編集を担当することが多い黒岩義民は本作が意識したと思われる『ゴジラ対ヘドラ』と1984年版『ゴジラ』の編集を担当しています、だからどうしたというほどのことでもないにせよ、妙な因果ですね。)

特撮シーンの特徴として触れておかなければならないこととしてカメラの位置が非常に高く置かれていることが挙げられる。樋口真嗣の過去作品において人間の視点を意識したローアングルから怪獣を見上げる演出が多用されていたことから考えるとこれは異常な事態である。ローアングル・人間視点は確かに怪獣の巨大感を演出するためには有効な手法ではあるが、一方でカメラの位置が固定されすぎて画面が硬直してしまい、何よりスペクタクルを見せることより隠すことにベクトルが向いてしまう危険性がある。このローアングル・人間目線を徹底したギャレス・エドワーズ版『ゴジラ』がどういう映画になったかは記憶に新しい。ミニチュアと着ぐるみという技法ではカメラ位置を高くすると特撮の粗が見えやすくなるため昔は致し方ない面もあったが、技術が進歩した今ならローアングル以外の視点でもやれるはずである。だから今回カメラ位置を高く設定したことはこのローアングル・人間視点の限界を超えようとする試みとして歓迎すべき点だとは思うが、果たしてこの映画においてそれが十分な効果を上げていると言えるのか。

またこの映画を見ていて再認識したことが一つある、映画の魅力とは「想定外」にある。 「しっぽ!」「ええ、尻尾ですね」 「えっ、動くの?」 「どうするんだ、上陸しないって言っちゃった後だぞ」(「言った後だぞ」ではないところがポイント)。劇中の政府関係者の台詞は決められたルール通りに行動している時よりも想定外の事態に遭遇し、人物の「素」がむき出しになる瞬間が一番面白い。

特撮シーンも一番面白いのはまさに想定外の生物が画面に映される蒲田・品川のくだりである。震災時の映像を参考にしたであろうボートが川からあふれ出す場面や巨大不明生物が道路に放置された自動車を跳ね飛ばす光景をむやみにカットを割らずにじっくり見せてくれるところが良い。熱線のシーンは『巨神兵東京に現わる』や『インデペンデンス・デイ』の焼き直し感は否めないが、それでも背びれから熱線など想定外の動きをしてくれるから面白い。

そして対照的に巨大不明生物が鎌倉に上陸した後、特に自衛隊による多摩川を最終防衛線とする迎撃駆除作戦のくだりはとてもつまらない。それは基本的に自衛隊側は決められた手順に従い作戦を進行し、巨大不明生物はそれに大して徹底的に無反応であり続ける、端的に言って想定外不足だからである。自衛隊による多摩川を最終防衛線とする迎撃駆除作戦は最後の最後になって橋が跳ね飛ばされ自衛隊戦車を踏みつぶそうとする想定外の事態がようやく発生する。ラストの巨大不明生物の活動凍結を目的とする血液凝固剤経口投与を主軸とした作戦もハリウッドに引けを取らないビル倒壊場面などは感動的ではあるもののやはり作戦がスムーズに実行され巨大不明生物側の抵抗、想定外の事態が少ないから面白味に欠ける。それを実行する人間側もマスクで顔を隠された状態のまま顔アップを連発するからさすがに画面が単調で退屈過ぎる。

そして最後にこれは一ゴジラファンとしての意見だが、この映画はゴジラを悪としては描かなかった。ゴジラに殺された犠牲者を強調しゴジラを排除しようと仕向けるような作りにはしなかった。その点はとてもとてもうれしい。

(評価:★3)

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