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[コメント] ジョゼと虎と魚たち(2003/日)

障害者とのラブストリーリはドラマにもよく使われる定番だが、この映画がそれらと一線を画するのは逃げやごまかしがないからだ。
新人王赤星

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







妻夫木聡は最後に語るようにまぎれもなく「逃げた」のだ。

旅行の途中で実家に寄れない事を妻夫木聡が電話で伝える際、弟に「兄ちゃん、ひるんだな」と指摘される(実家に連れて行く=ジョゼを完全に受け入れる儀式)。その言葉に動揺した妻夫木聡はそれを否定するように態度を変えて献身的な愛を演じようとした。世間知らずの池脇千鶴の天真爛漫な魅力と、これからずっと彼女を背負っていかなくては行けないという「重たい」予感。生活を共にする中で見えてきたのは妻夫木聡の疲れ、苛々、そして彼女の奔放さに飽きてるという事実。

決して媚びず、卑屈にならず、それでいて健気で儚げな池脇千鶴の不思議な魅力には誰もが惹かれるだろう。妻夫木聡にとってそれは愛や恋という奇麗事だけでなく、魅力的な障害者への興味半分と同情も大いに含まれている。あるいは障害者の少女に捧げる愛という立場に酔っているのかも知れない。やはり弟が「実家の親が喜びそう」と指摘する立場に。その事実をこの映画は目を背けずにしっかりと映し出している。

妻夫木聡はセックスの為に学生生活の大半を過ごしている様な典型的な「普通の日本の大学生」だ。愛想も良く女に優しく、要領良く女心をくすぐる術は大学生活できっちり学んだような男。このタイプは女好きする。誠実さは特に無い。ちょっと興味を持った福祉の仕事にも結局は就いていない。上野樹里が言うように「ごりっばな男ではない」のだ(九州から出てきたという設定だが彼だけが標準語というのも、女性とHしまくる軽薄な要領の良さに合っている)。純粋な愛情からではない、純粋な奉仕の精神からでもない、同情と興味半分の入り混じった若者の恋愛なのだ。一貫してすべての女性に対してされる欲情したキスが示すように。

祖母は障害をもった孫を「壊れ物のくせに」と罵しり、恥ずかしいからと世間から隠す。福祉の仕事に就きたい上野樹里は「ブリッコ少女」で片付けられ、あっさり女の嫉妬で偽善を顕にしている。だけど皆、良い悪いで描かれていない。等身大の人間なのだ。

最後、一人残された池脇千鶴は自分の足(電動車椅子)で颯爽と町を歩き、穏やかな表情で焼き魚を料理している。決して海の底に再び埋もれてはいない。最後まで凛として媚びず未練がましくすがる真似もしない。彼女は海の底から解き放たれた。妻夫木聡は逃げた自分に泣いた。ひるんだ自分に泣いた。中途半端な覚悟だった自分に泣いたのだ。新しい彼女の前で別れた女の事で涙する最高に格好悪い涙。それはとても感動的だ。主人公二人にとってこの若い恋愛は決して無駄ではなかったろう。人生にとって意味のある出会いだったろう。変化と成長をもたらした恋愛だったろう。

障害者との恋という設定でありながら決して綺麗事に逃げないから説得力があり、それでいてユーモアとさわやかな視点で最後まで見せるからこの映画はそんじょそこらのドラマと一線を画するのだ。

(評価:★4)

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