[コメント] 生きものの記録(1955/日)
正論の厄介なところは、小市民のささやかな幸せについての物語を、一気にSFレベルまで移行させるところだ。三船のエネルギッシュな偽老人ぶりが、そんな簡単なことを忘れさせてしまう。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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三船の最大の過ちは、巨大なものを恐怖するあまり今自分が生きている環境を忘れたことだった(かくて妄想はシュールレアリスムへと発展し、結果的に破滅へと落ち着く)。かつて彼が現実を生きていたとき、妾を何人も持って多くの庶子を作ったことも、自分が多くの人間を働かせる組織の長であることもだ。これを絶対的な核恐怖の映画として共感することは、黒澤のマジックに呑まれてしまうことに他ならない。黒澤自身が、狂った三船との面会を終えた志村喬と、三船の赤ん坊を背負った妾をすれ違わせて終幕としたことを見逃してはいけない。いつ降ってくるか判らない核爆弾のことを思い悩むまえに、三船が明日を考えずに無責任に作ったひとつの命がそこにあるのだ。
生まれる前から核が世界に存在していた世代の我々は、それを闇雲に恐れては生活もなにも出来はしない。そういった意味で、この狂気に同化して事たれりとすることは恥ずべきことである、と正直思う。
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