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[コメント] プラダを着た悪魔(2006/米)

ファッションの原点こそは内なる美。本作は、あらゆる点で行き過ぎた現代ファッション社会を美しく生きる上での、ひとつの方法論。
ケンスク

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画としてどうか、といえばそこまで特筆すべきもののないオーソドックスなサクセスストーリーであるが、現代サブカルチャーをしっかりと映像化しているところに高評価。そして何より、アートとはかけ離れた現代ファッション社会に対する風刺もおぼろげなメッセージとして込められているそのストーリーが個人的に非常に気に入った。

以下、長文で失礼なのだが、本作に同感した自分の思うところを書き綴りたい。

僕は、ファッションだとかお洒落だとかは、「センス」でなく「知識」に依拠すると考えている。要するに、デザイナーの提案する意匠にどんな意味合いが込められているかや、世論やライフスタイルの流れがどうなっているかを理解して初めて、自分の身に纏うものに意味性やこだわり、オリジナリティといった要素を持たせることができ、そして世間がそれらをどう評価するであろうかを知ることができるということである。

ファッションは取捨選択の賜物なのだ。

本編序盤で、「ベルト2つが同じものに見える」と言ったアンドレア(アン・ハサウェイ)をミランダ(メリル・ストリープ)がやりこめるシーンがあるが、これはセルリアンブルーのニットを何の意味性もなく選んだアンドレアに取捨選択の能力がない(=お洒落ではない)ことを知らしめている。

そしてさらに、デザイナーズブランドのコレクションライン等を求めようとするならば、莫大な資本が必要である、と言う点も見過ごせない。高級ブランドを身に纏っている=服にお金をかけている=身に纏うものの選択肢を広く持っている、と言う具合に通常受け取れるし、これは一般世間にも理解を得やすい。よってもって、ファッションをある程度極めようとするならば、知識だけでなく、資本力も必要不可欠となる。

しかしながら、そういった「知識」や「資本力」を一般の女性が持とうとするのであれば、大変な努力を払わなければならない。特に社会の2極化というひとつのイシューに対してかまびすしい今日において、所謂「勝ち組」に乗ろうとするならば、仕事で私生活を犠牲にしなければならない場面も非常に多くなる。ミランダがそうであるように、また、アンドレアがそうなっていったように、だ。

巷でもてはやされるファッション誌が、このような辛い現実に対する建設的な生き方を提案しないのは非常に皮肉で、残念なことだと思う。例えば、「VOGUE」や「GINZA」や「SPUR」は、本編に出てくる「RUNWAY」と同様、非常にファッショナブルな世界を提案しているのだが、華やかな部分だけをフィーチャーして金銭的に非現実的なものでしかない。それを追い求めるために努力したり、諦めたりしなければならない部分には触れないのだ。

一方で、大学生層に支持される「CanCam」「JJ」「ViVi」「Ray」といった部類の雑誌は、違うアプローチとして、こうした辛い現実に相対する女性心理をわしづかみにする「努力しないでもファッショナブルになれる」と言わんばかりの幻想の世界を作り上げてしまった。

詰まるところ、現代を美しく、かっこよく生きるコツは、ファッションもほどほどの知識・資本力で自分なりに楽しみつつ、内面も磨き、自分の夢や信念と真正面から対峙すること・・・これに尽きるのであって、ファッション誌に踊らされることではないのだ。本作は、メディアが教えてくれないそういった心温まるメッセージを提供してくれる。だから、ハートウォーミングなのだ。

ファッションに関心を持つ一人でも多くの人に、本作を見てもらいたいと切に願う。 そう、ファッションの行き着くところは、内なる美、なのだから。

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と、以上でやっと自分の思いのたけをまとめたが、 読み返してみると、封切初日のレイトショーを、仕事に疲れた身ひとつで見に行ったサラリーマンが綴る内容じゃない。

だから、この際だから見苦しいのは承知の上で、以下で鬱憤をぶちまけてしまおう。

CanCam、JJ等で神格化されている感のあるOL。OLってそんなに偉いのか!?OLでも大手企業の総合職として働こうものならそれは大変なもんだ。「30日間コーディネートカレンダー」みたいな特集で組まれてるあんなOLに仕事できるわけねー。なにが「今日は先輩にディナーに誘われちゃった、どうしよー☆」だ。なにが「コンサルタントのA君が食事に誘ってきたけど、ヒマだしおごってもらっちゃうか☆」だ。現実は残業の毎日だ。それに企業をコンサルタントだとか外資だとか定義のないカテゴライズするのはやめれ!ステレオタイプとして誤解が広がるだけだ。日本の製造業を甘く見るんじゃねー!!エンジニアをオタク化するんじゃねー!!戦後の日本を支えてきたのは製造業だ!なに、給料が低い?文句あるか!それからあれだ、読者登場欄のAちゃん(家事手伝い)とかいう肩書き。なんだその婉曲?正直に「Not in Employment, Education or Training」とか書きゃいいじゃねーか。現実逃避かっつーの。こんなやつらが特集の「クリスマスおねだリスト」とかで紹介されるブランドもののバッグに憧れを抱いて、グアムなんかの免税店で購入してもらった念願のヴィトンのモノグラムを手首にかけて記念撮影しちゃったりするんだ。しかもお目当てはバッグだけ。洋服には目もくれないって寸法だ。そんなんだから海外からバカにされ、渡航先でカモにされるんだっつーのよ。そしてさらに許せないのが「バレンタイン」と「ホワイトデーのお返し」の価格の差。ただのチョコレートとブランド物を物々交換できる経済なんてくそくらえだ!!バカヤローー!!

はぁ、はぁ、今日はこんなところで勘弁してやるとするか・・・・。

(評価:★5)

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