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[コメント] 花様年華(2000/仏=香港)

まるでミケランジェロ・アントニオーニが『アイズ・ワイド・シャット』を撮ってしまったようなエロス=夢。私たちにとってはもう、セックス=現実さえも快楽じゃないのかも・・・

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







チャウ(トニー・レオン)は腐れ縁の友人(スー・ピンラン)に向って事もなげにもらす。「知ってるか、昔の人のやり方だ。大きな秘密を抱えてる人はどうしたと思う・・・」。その友人は真剣に聞いているわけでもない様子で言う、「分からねえよ」と。チャウの方も気にせず話をつづける、「山で大木を見つけ、幹に彫った穴に秘密をささやくんだ。穴は土で埋めて、秘密がもれないよう永遠に封じこめる」。「ご苦労なこった。女と寝た方がいい」と、また友人は吐き捨てる。チャウは、少しだけ口の端をつり上げ笑みを浮かべながら、「単純な男だ」と呆れ気味に応える・・・・・・・

若い頃は、セックス=エロスがわかりやすく結び付いている。女の胸や尻に触れただけで、男はこの上もない快楽を感じてしまう。けれども、年を重ねれば重ねるだけ、セックスとエロスが離れていってしまう。体を交わすよりも、何気ない言葉のやり取りや二人の間にある空気を交わすことの方がエロティックに感じられる。現実=セックスを生きているよりも、エロス=夢に生きているように思えてくる。たとえば、チャウとチャンが住むアパートは、まるで迷路のように入り組んで、夢のようにあいまいで、存在自体がエロティックだった。

女(マギー・チャン)のヒールの運びに、赤いカーテンが風に揺らめく様に、煙草の煙りの漂いに、男(トニー・レオン)の背中に、壁越しにもたれ合う男と女の切なさに、なんとも言い難いエロスの芳香を嗅ぎ取ってしまう。セックスで快楽を得られるほど「単純」ではないし、映画や文学そして「女」を知り過ぎてしまった(と思ってる)から。とことんわかりにくい人間になってしまっていたのかもしれない。欲望の翼をひろげるには・・・。

花様年華』は、現実を夢のように生きる/夢を現実のように生きる男と女へのガイドブック・・・羅針盤・・・風見鶏・・・の、ようなもの。アントニオーニが『欲望』で描いたそれを、カーウァイは『欲望の翼』で引継ぎ、『花様年華』で完結してみせた・・・いや、そうではないのかもしれない。チャンも言っていたではないか、この関係は「どう始まったのか・・・」と。始まりのない映画には、また終りもない。ただ、「過去は見るだけで触れることはできない。見るものはすべて、幻のようにぼんやりと・・・」。そして、鈴木清順(『夢二』)も言っている、「この世は夢である。若者よ、ただ狂え!」。

(評価:★5)

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