[コメント] クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲(2001/日)
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この作品は傑作だ!と言う意見がこのシネスケで多く聞かれ、先日放映したTVでも録り忘れてしまった。そう言うことで半ば意地になってレンタルしてきて鑑賞。
いやはや素晴らしい出来だった。この年宮崎駿氏の『千と千尋の神隠し』があって目立ちはしなかったけど、別な意味でこれはアニメと言う素材のおもしろさを最大限引き出すことが出来た作品。21世紀最初の傑作アニメだろう。
冒頭からいきなり万博のシーンで、そこで展開されるヒロシサンの活躍は「よく分かってらっしゃる」と言う出来で、あのアングル、股間のモッコリまで再現したあの雄志!それにトヨタ2000GTやレトロカー(冷房効かせると酔いそうな異臭を発するんだよな)、あの夕焼けの街角。あの敵役の名前。全て本当に良く練り込まれた描写だった。
ストーリーも良く(どことなく『うる星やつら2』に似て無くもないが、それは良いとして)、実に楽しく仕上がっていた。子供だけでなく、大人にこそ楽しめる内容で、「クレヨンしんちゃん」の質の高さを感じる。劇中でも語られていたが、まさしく「匂い」を感じられる作り。これは巧い。
ただ、この作品を観進めていく内に、違和感を感じるようになった。前半のノスタルジックな雰囲気に浸り、中盤にさしかかった辺りでどことなく何か釈然としないもの、もやもやしたものが心にわだかまり、終盤の家族活劇になってはっきりとその違和感を理解できた。
元々「クレヨンしんちゃん」は小生意気な園児シンノスケの醒めた言動が受けた理由ではなかったか?私は逆にシンノスケの「すれば〜」と言う言葉が、何か未来の暗さを暗示しているようで、それがたまらなく嫌いだった。
そして放映開始から10年以上が過ぎ、21世紀の今日、本当にそう言う世の中になってしまった。社会には様々な規制が入り、未来のヴィジョンが見えにくい社会。その中で生きるための術は醒めきった目で世の中を見つめること。もし今「未来は?」と問えば、「停滞」と答えてしまえる世の中になってしまった。だからこそ、このノスタルジックな70年代を思わせる街角の描写に惹かれるのかもしれない。
未来に希望を無くし、停滞した過去の町並みに真実を見出そうとするケンとチャコ。それに対し、未来を信じ、文字通り血を流しながら駆け抜けるシンノスケ。それがここでは描かれる。だが、これはしかし本来全くの逆の立場ではないのか?
あの夕焼けの街角。一見停滞しているかのような人々の生活の裏には間違いなく高度成長時代でがむしゃらに働いている人がいたのであり、それが明るい未来を夢見せていた。それを代表するはずのケンとチャコは内面に閉じこもっており、一方、彼の存在そのものが表していたはずの、醒めきった未来を代表するシンノスケが熱血状態。この作品で現代から見た21世紀の未来を暗示していたのは、実はケンとチャコの方であり、むしろ過去の20世紀的価値観によって動いていたのがシンノスケだった。
そう考えると、この作品はとても皮肉に思えてくる。制作者の意図するところは全く違っていたのかも知れないが、まさに展望のない未来を見るより、熱気溢れる過去をこそ見ようとしたのがこの作品の意図のように思えてしまう。
大人が子供化して、それを容認する社会。そう、オトナ帝国とはまさにこの21世紀の日本そのものなのかもしれないのだから。(そして私も又、オトナ帝国の一員なのかも知れない)
だから、一応おきまりの家族愛でこの物語を締めてはいるが、この作品は実は結論が出ていない。一体私たちはこの社会の中で子供たちにどのような未来のヴィジョンを見せることが出来るのか。結局その答えを出すのは、これを観ているオトナの私たちなのだ。
…と、まあ、柄にもなく(?)そんなことを思ってしまったのだが、実際このアニメは質が高い。食わず嫌いだったが、過去の作品も観てみたいね。それにしても股間(又はお尻)に執着するはこの作品の持つ特性かね?
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