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[コメント] マルサの女(1987/日)

心ならずも、いつしか宮本信子にドキドキしていた。チチ帰る。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







注意:『タンポポ』のネタバレも含みます。

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いや〜茶プリンさんに先書かれちゃったな・・・。とにかく、前作の『タンポポ』は母の乳房を吸う赤ん坊で締め括って、次のこの『マルサの女』では、看護婦の乳房にしゃぶりつくお爺ちゃんで開ける。そういうシャレ好きだなあ。

前作『タンポポ』が、人間の生理的欲"求"≧「食」をテーマにして、最後は「乳帰る」なら、この『マルサの女』は、人間の社会的欲"望"≧「金」をテーマにして、まず冒頭に「乳帰る(過去形で*)」を持ってくる。その欲望の根源、社会に揉みくちゃにされて皺くちゃになって、赤ん坊に戻るしかなくて、乳房を吸うしかなくて、死ぬ。そして、その「死」は、勿論社会にリサイクル利用される(名義だけ利用されてたりしてね)。そういうセンス好きだなあ。

僕は、この映画がメッチャ好きです。このあざとさが何とも言えず好きです。で、何回も観ました。

宮本信子のあざとい演技の真骨頂。この「マルサの女」というキャラクターにおいては、その演技は見事に機能してます。

確かに、夜7時台のTVスペシャル番組的なネタ披露が過剰な点も否めません。でも、考えてもみてください。これだけ知的に戦う、しかも合法的"暴力"で戦う、女性を描いた映画が、日本に限らずハリウッドにでもあったでしょうか?(確かに、宮本信子は監督の妻であり、それを最大限利用したがっている、という点もあるでしょうが。)やっと築きあげた財産をゴッソリ"略奪"していく憎き「お上」を応援してしまう映画があったでしょうか?

そして、その観客の声援は、当然、自己投影できる"略奪"される側にも向けられるところが、物語の構造的豊穣を生み出してます。勿論、それは脇を固める俳優たちの素晴らしい演技に支えられてこそ。彼らも随分あざとい演技(伊東四朗のマッチや、大滝秀治の頭撫ぜ、etc)をさせられてますが、これもうまく機能してます。山崎努は勿論、リネン会社の佐藤B作や「関東蜷川組の蜷川だぁっ!」の芦屋伸介、当選宝くじを売りつけようとする(結局どうしたんだろ?)ギリヤーク尼ヶ崎・・・みんな映画的なキャラクターで好きだなあ。個人的には、伊東四朗にゼンブって感じですが。

ただラストは、やりすぎと言うか、あまりにも劇画的でちょっと醒めました。勿論、おーい粗茶さんのご指摘にあるように「血税」というメタファーにしろ、なんか恰好付けすぎに思えたし。でも、その直前の、公園で遊ぶ子どもたちを見て、山崎努の言う「ああいうのを見てると、胸がしめつけられる」というセリフ、あれが大好きです。あのことばは、三十路を過ぎた今、じわじわとリアリティーを持ちつつあります。

そうそう、忘れてはならないのが、この映画における「ダイちゃん」の存在。「ダイちゃ〜ん、ダイちゃ〜ん」の宮本信子の声。あの電話のシーンは本当素晴らしいです。父親不在、父帰る、そりゃ違うな。

* copyright (c) emau様

(評価:★5)

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