[コメント] ひゃくはち(2008/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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いやぁーテンション上がりました。ノックがね。テンション上がるんです。「オエー!」つって叫んで、コヒィン!って金属バットの残響が消えてくと思ったらシュルルー!ってボールが風切る音が聞こえてね。グラウンドを削りながら飛んでくるボールに、もうビヨーンって身体投げ出して、目いっぱい手を伸ばしてスパァン!っていう、あの感触がもう、テンション上がるんです。ほんで、うわぁっ!って思いっきりファーストに投げる。特に逆シングルのときなんてね、いっけぇぇぇええ!ってなもんです。こんなん書いてるとすごい野球うまい人みたいだけど、実際中学までだし硬球なんてほとんど触ったことないけどね。それでも思い出すんです。あの感じ。
部活って、練習なんですよね。試合なんて部活じゃないんです。エースや怪物にはそれが解らんのですよ。
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寮の“かんぶべや”で一緒に暮らすことになった4人のポジションは、サードがふたりにファーストがふたり。それぞれの控えが主人公で、彼らにはレギュラーを奪い取ろうなどという気概はまったくない。それどころか、4人仲良くコンパで大騒ぎをしたりする。
この物語は潔すぎるくらい潔い負け犬の物語なんです。すでに当初の目標をひとたび失い、自分がヒーローになる人間ではないことを悟った者たちの──つまりは、私たちの物語なんです。
新米の女性記者が主人公に問います。
「試合に出られないのに、君はなぜ野球を続けてるの?」
この問いはひどく残酷なものです。この問いに主人公は「野球が好きだから」なんて言いません。「試合に出たいから」とも言いません。野球部員にとって、野球の練習が日常だからです。日常だから、「考えたことがなかった」という答えしか出てこないんです。
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【position(ポジション)】[名]──守備位置。
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最後の夏を、きっと彼はポジションを得ることなく終えることでしょう。
女性記者の問いに彼は「やり遂げたら答えられるかもしれない」と言いました。
だけど答えなんて、きっとないんです。「野球が好きだったから」と言っても「試合に出たかったから」と言っても、きっとそれがすべてではないんです。
「生きた。」ということなんです。
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【position(ポジション)】[名]──立場、身分、姿勢。
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私も今現在、日常の中でポジションを争っています。露骨にそれを誰かと奪い合うことはなくなっても、何とか持ち崩さないように必死になっています。
「大金持ちになれるわけでもヒーローになれるわけでもないのに、君はなぜ生きてるの?」
死ぬときになったら、それを答えられるかもしれない。だけど、答えられないかもしれない。だけど私は「生きた。」となら言えると思うんです。
そんなもんだと思うんです。それでいいと思うんです。この名も知らぬ若者が撮った『ひゃくはち』という作品は、そういう映画だったと思うんです。
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この映画が野球映画としてとことん普通じゃないのは、エースを描かなかったことです。どんなチームにあっても、エースと補欠野手というのは別世界の人間です。同じ野球部でも別の競技をやっていると言っても過言ではないくらい遠い存在です。
その遠さ、作品中には描かれてないのに、やけに身に染みるなぁと思ったんですが、あのユニフォームでハマスタや甲子園のマウンドに立つエースと言えば、もう10年も前だけど、やっぱり自分の中で怪物・松坂大輔を想像してたんだろうなぁ、と後になって考えました。これ、計算してたのかな。
あと、怪物といえば、一年の怪物立花クンはどう見ても、あれ日ハムに行った中田翔ですよね。オーディションでバット振らせたとしか思えないキャスティング。スイング。
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