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[コメント] ゼロ・グラビティ(2013/米)

それでも地球は美しい。それでも人は生きていく。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







その長回しが特徴的なアルフォンソ・キュアロンですが、「死の匂いがする映画」というのも彼の特徴だろうと私は思っています。“死の淵”映画と言ってもいい。 私は『天国の口、終りの楽園。』の印象が強く、メキシコ人らしいかどうかは分かりませんが、少なくともアメリカ(ハリウッド)っぽくない。この人の映画は、ハリウッド的な上っ面でなく、真摯な“生”に対する問いかけがある。

そう考えると、主人公であるサンドラ・ブロックが娘を亡くしたというエピソードは重要だと思うのです。 つまり彼女は“死”を身近に感じたことがあるわけです。おそらく、彼女が“死の淵”に立って孤独と絶望を前にした時、「娘も同じ思いを味わったのだ」という思いがあったでしょう。この映画のサンドラ・ブロックの演技が高く評価されている理由は、単に体を張った演技だったというだけでなく、こうした“背景”が表現されていたからではないでしょうか。

そして「亡き娘」のエピソードでもう一つ重要なのは、娘以外で家族の匂いがしない点。もう少し過剰な言い方をすると、地球上にあまり未練がない。「地球に帰る希望」が希薄。 よくあるパターンとしては、「この戦争が終わって帰国したら彼女にプロポーズするんだ」的なことを言って結局死んじゃう「果たされない未来」というのがあるのですが、いわばこの映画はその逆。 彼女には、どうしても帰還しなければならない強い動機や希望といった「明るい未来」はないのですが、「それでも生きる」選択をするのです。 この映画には、「それでも生きる」「それでも人は生きていかねばならない」という強いメッセージがあるように思えるのです。そこも含めて“死の淵”を覗く映画として高尚で、それ故感動的なのでしょう。

これでもか!と怒涛のように押し寄せる苦難の中、地球は悠然と美しい姿を見せます。 そして、その美しい地球に命からがら到着した彼女は、生命の象徴でもある“水”の中でもがき、地表に這い上がり、自らの(弱った)足で“大地”に立つのです。誰の力も借りずに。 人は皆、孤独と絶望に直面するし、明るい未来は見えないかもしれないけど、「それでも自分の足で立って、生き続けねばならない」。これはそういう映画だと思うのです。

(13.12.22 渋谷TOEIにて鑑賞)

(評価:★5)

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