コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ロスト・イン・トランスレーション(2003/米=日)

異国にて、異国の人と見た。
Alcoholic

私は今イギリスに住んでいて、一緒に見ていたのもイギリス人。そのことは、私がこの映画を評価する上でベースになることだと思う。

この国は夜が早い。ほとんどの酒場は11時には閉まってしまう。日本と違ってネオンも無い。街灯は日本の蛍光色のものとは違い、薄ぼんやりしたオレンジ色だ。夜は暗く、長い。ネオンに溢れる街を見慣れた私は最初、この国の暗さを理解することが出来なかった。ビルで溢れた日本の都会と比べ、窓から見えたのは緑一色。日が暮れると街は眠りはじめ、深夜ともなれば時々通る人の声ぐらいしか聞こえるものが無かった。

その暗さに違和感を覚えた。自分の中で当たり前になっていた「明るい夜」が壊される不安感。暗い夜、日本はそろそろ夜明けだと考えると切なくなった。静けさの中で家を思って涙してみたり、文化に触れようと日曜に街に出かければ店がほとんど閉まっていたり。憧れの国だと思って留学したはずが、自文化とは全く異なる文化の中で、私はまさに「迷子」になってしまったのだった。

そんなことを思い出しながらこの映画を見た。この映画の主人公2人は、そもそも自らが望んで日本に来たわけではない。違う言語に囲まれたときの孤独。ふとしたときに言葉が分からないという恐怖。

そして、何よりも「明るすぎる」夜。一緒に見ていたイギリス人は、夜のネオンに溢れた東京が映し出された途端に「うお」と声を上げた。それほどの違和感がある風景。書いてある文字も読めないというのに。日本人に混じって一緒に遊んでいるはずなのに感じる疎外感、よそ者意識。やっと見つけた、同じ言語を喋り、同じ心境にいる2人が、お互いだけに居場所を感じた気持ちが私にはよく分かった。

そしてそれは、異文化の中でしか体験することが出来ないものと思う。私がこの映画を純粋に楽しめたのは、自らがその体験をしたことがあるから。そしてそれ以上に、自らが異文化の中にいたからだと思う。西洋と東洋というかなりかけ離れた文化の中で、自分を見つけるのは大変なのだ。

それでもこの映画に5点をつけることが出来ないのは、私が日本語話者だからだ。不思議な発音や外国人には理解できないディレクターの指示も、私は全て理解してしまう。ちなみに英語字幕では、日本語部分は"Speaking Japanese"と出るだけで内容は示されない。主人公とともに観客を「迷子」にさせること、それがこの監督の目的だっただろうから、そういう意味で日本人はこの映画を100%楽しみ、本当の意味で理解することは出来ないのではないかと思う。隣で見ているイギリス人にせがまれて日本語訳をしながら、自分がこの映画の何パーセントかを損していることを悔しく感じた。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (15 人)24[*] Lostie おーい粗茶[*] moot らーふる当番[*] ジェリー[*] くたー[*] コマネチ[*] Yasu[*] tredair[*] けにろん[*] スパルタのキツネ[*] ina 緑雨[*] kaki[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。