[コメント] 誰も知らない(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
子供はどんな環境でもそれに適応する。物資と消費の溢れる現代社会でただ生きる為に生きるシンプルで慎ましい命。生活する範囲は公園やコンビニなど限られた狭い空間だけど、彼らにとってそれは無限の世界。子供だけの小さな世界を形成して、無限の世界に挑んでいくのだ。彼らは世界に無抵抗であると同時に誰も恨まない。ただよりそって生きていく。厳しい生活に苛立ちや衝突もある。それでも喜びを見つけ笑って生きていく。はかなくも豊かな命。たとえ身なりが汚れていようとも、その珠玉の輝きが曇ることはない。
羽田からの帰途。土塗れの二人の歩みと電車での静かで強い眼差し。流れるタテタカコの歌。それは小さな命への美しい生命賛歌、人間賛歌に他ならない。極限状態で、それでも彼らは生きていく。それでも寄り添い笑いながら。生きる事そのもののシンプルな喜びを、都会の狭間で体現する小さな命への賛歌。
柳楽優弥のカンヌ最年少受賞は納得。少年特有の不器用な表情、はにかんだ笑顔、そして成長。韓英恵を含め子供達の演技を超えた存在感は素晴らしく、鑑賞中、彼らの下にかけよりたくなった。エマニュエル・ベアールでなくともキスを送りたくなる。日本の子役が劇団演技ではなく、人物になりきり設定に放り込まれて自然に出てくる反応を利用するいわゆるメソッド演技をするのは珍しい。是枝裕和の演出の賜物。
※是枝裕和は「子供達を撮りながらこの映画を作るエネルギーは怒りから愛情に変わった」と語ったが、告発する社会派ドキュメントドラマではないだろう。モデルとなった事件とも随分違う。実際は5人兄弟のうち、二人が死亡。一人は押入れに隠され、一人は長男の友達による折檻死。末期は、日常的に長男による折檻も行なわれていた(もちろん長男は幼い妹達を守ろうとちゃんと面倒も見ていた)。事件は当時母親へのみ批判が集中したが、母子家庭、非嫡出子が社会的法律的に認められていない背景や、非嫡出子は妊娠の時点で中絶が勧められる社会土壌。報道にも表れた戸籍に対する世間一般の差別的誤解。男性の責任。おなじみ公的福祉の消極的態度なども同様に考えるべき事件であった。あえてそういった問題に焦点を当てず、一年かけて子供達の成長する表情を残す事に徹した映像の純粋さは、大人の主張を挟むよりも逆に雄弁に僕達の心に訴えて揺さぶる。子供達を見つめる視線は怒りを超えた愛情であった。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (15 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。