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[コメント] 嫌われ松子の一生(2006/日)

ここまで陰惨な原作を、ディズニーのファンタジック・ミュージカルのように彩り、爽やかな余韻すらも残す中島哲也監督。やはり、尋常な才能とは思えない!
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作の松子に一足先に出逢っていた自分は、プロローグのあまりに明るく派手派手しい演出を観て、「おいおい、こんな事していいのかよ」と思ったものだ。案の定作品は原作とは似て非なる別物になっていた。だが、とてもキュートで愛すべきミュージカルに姿を変えて。これは中島監督と音楽担当のガブリエル・ロベルトの素晴らしい仕事の賜物であろう。そうとも、原作をいじって夢見る永遠の少女の物語にでもしなければ、この話、救いようというものがない。

原作にないシーンの追加を見てみよう。片平なぎさは監督のお遊びだから笑い飛ばすとして、光GENJI はちゃんと密接にストーリーと絡まっていることに些か戦慄を覚えるが、ここで指摘したいのは彼らのことではない。

病床にある妹にばかり愛情を注ぎ、松子には目もくれない父。彼の関心をひくために、松子はコメディアンの顔真似を父に見せて笑わせる。これがクセになって抜けないところに、愛に飢えた中谷の心づくしのチャームポイントが形作られ、一気に映画のパラレルワールドに引き込まれる。

そして晩年、生き甲斐を失くして「嫌われ女」になった凄惨な変わりようの松子と、その呪縛から解き放たれ天国への階段を昇ってゆく若く、美しいままの松子の静かな退場には血涙を絞られる。原作ファンは「堕落、あるいは通俗化」のレッテルを貼り付けるかもしれないが、他に「映画としての」終わりようはなかった筈だ。この映画は幾分寓意を含んだお伽話なのだから。

ただひとつ残念だったのは、頭の良い松子が、仕事は何をやらせてもナンバーワンに至るという負けん気と努力家ぶりが、あまり映画では描かれていないところだが、自分としてはそれも許せる気分になっている。ただひたむきに、愛した男とのささやかな幸福の巣を夢見る松子。愛した男を裏切らない「神のような」松子は、愛のみに命を賭ける存在として焦点を絞られている。それゆえのやむなき改変なのだろう。

この映画の松子は、おかげでより愛すべき存在となっていたのだから。

(追記)ガブリエル・ロベルト氏にはぜひ本格的なミュージカルに参加してもらいたい。それは必ずや日本のミュージカルを根底から覆す作品となることだろう。

(評価:★5)

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