[コメント] 秋刀魚の味(1962/日)
笠智衆が何代目の艦長だったのかは映画内では語られていないが、けっして楽な内地勤務でなかった事だけは確かである。朝風級の一番艦として第5戦隊の第5駆逐隊を率い数多くの戦史に残る海戦を戦い抜いてきた殊勲艦である。
駆逐艦といえば「軍艦」の中では最も小型艦であり、外洋の荒波に翻弄されつつも、いざ戦闘となれば敵艦に肉薄して至近距離から魚雷攻撃を仕掛け、防御時には自らを盾として主力艦や商船を守るという過酷な役目を担っている。薄い装甲の大量生産で消耗品的な艦であり、その多くが撃沈されていった。
一等水兵の加藤大介からみたら神様のような存在だった艦長。戦争が終わり17年が経ち、街角のトリスバーで気軽に会話を交わせるようにまでなった。劇中で加藤大介が冗談まじりに言うように、戦争に勝っていたら今頃二人ともニューヨークにいたのかも知れない。
しかし戦争には負けたが笠智衆は生き残り、それなりの地位を得て幸せな生活を営んでいる。戦前に教師として生徒たちに対し、尊敬と信頼と権力を持っていた東野英治郎の惨めな姿とは対照的ではあるが、いつ自分が同じ姿をさらすのか不安が増してくる。
小津監督は主人公の設定に何故、元駆逐艦艦長という前歴を選んだのか?当時の男たちはほとんどが戦争体験者であるのだから、軍人という設定は珍しい事ではない。しかし、海軍兵学校出身で少佐にまで昇進していたであろうエリートをもってくる事で、茫洋としてはいるが実は気性が激しいという性格設定なのだろうか?気性の激しさは娘の岩下志麻がそっくり引き継いでいるらしいが。
この設定といい、トリスバーでの名シーンといい、私には本作品での小津監督の意図がよく理解できません。笠智衆は茫洋とした一小市民の設定でよかったのではないでしょうか?それとも私が理解していない意図があるのだろうか?
何度も繰り返し鑑賞している好きな作品なだけに気になって仕様がない
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