[コメント] 地獄の黙示録(1979/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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オリジナル版は公開当時、中学生。同級生だったKK君と行った。彼はいわゆる兵器マニアな人で、「史上最強の映画」と興奮していた。入れ替え制なぞない時代だったので彼はその日3回繰り返して見たらしい(ワタシは2回)。次の日、登校したワタシはクラスの戸をあけた瞬間、「ドッドッドッドッドッドッ」と機関銃で撃たれ、彼はワーグナーのメロと共にワタシの周りを旋回して、「ベトコンは死ね〜」「イェッサー!」と一人芝居。そこへ同志のKM君が「…クォーン…ドゥフッフフーン」とナパーム襲来。「朝のナパームは最高だ」。そしてまた二人でワーグナーを唄い、指揮し、機関銃をぶっ放し、廊下へ出て、作戦行動を取るのであった。そこでワタシはThis is the end.デデデ〜ン〜とギターを弾いてジム・モリソンに成り切るのであった。
そんな当時のインパクト度からいっても非常に印象深い映画であった。難解な…というか、「なんだか判らなくてスゴイ」映画であった。数年前にビデオで再見した時も、そのイメージは変わる事なく、単に破綻した話というか、「話なぞ無い、無意味さ故の映画…映画自体がベトナム戦争とリンクして、ベトナム戦争のドキュメンタリーとして成り立っている」といった感じを受けた。でも、やっぱりメインはドアーズとワーグナーだったのは確かで、前半のテンションの高さは揺ぎ無いものだった。後半の混沌さは、それこそベトナム戦争の9年間(だっけ?)の歴史と同じで、初めの内は明確だった指揮系統・作戦内容も後半には泥沼化、目的が不明瞭な迷走を繰り返した結果、全てを燃やしてエンディング。アメリカのベトナム撤退を意味するもの、と解釈していた。
そして、21世紀を迎えて、特別完全版である。ついに20年たって、コッポラ先生が「あの映画の意味はねぇ」と重い口を開けたのだ。なにも解答も何も…、いらんだろ?と思っていた自分は見る気もそんなに無かったが(なにせ長い)、ペペロンさんの赤レビューを見たくて、立川へ進軍。
そして、なんと!追加されたシーンなどなどで、しだいに明らかになって行く、「ベトナム戦争・アメリカ政府への批判」。まさか、フレンチの立場に立って、「アメリカは何の為に戦っているのだ」などと言われるとは思わなかった。女も余計だったが、意見も余計だ。そんな主義主張を入れるのは公開してから20年経って「特別完全版」でやってくれ。 これが、そうだったか…。
しかし、思うには、公開当時、アメリカという国は未だ冷戦真っ只中で、正直いってアメリカ自身でさえ、ソ連を初めとする共産圏の将来を読めていなかったはずだ。将来どころか、実態が見えてないから当然だ。なぜなら、当時、ソ連という国はアメリカと対等の力を持っているかも?と思われていたし、事実(この映画の公開後だと思うが)、アフガン侵攻したりして、ドギモを抜かせる国だった。アメリカは逐一、国の方針も経済状態も軍事力も公開し続けてきたが、その莫大な国力(と弱点)を持つアメリカに堂々と対抗する国。それがソ連だった。その共産化政策、そして軍事力は常にアメリカ自身を標的にしていると感じたのだろう。その危機感はホンモノ。「自分が世界のトップですから」という感覚で世界のあちこちに意見している(ように見える)のは、ほっといたらアメリカを乗っ取られると本気で思ったからだ(←少なくとも政府は。国民は逆に「トップ」意識しかない)。そんな中で、アメリカが唯一負けを認めた戦争「ベトナム」を語るのだから神経質になるのも判る。
ベトナム開戦時(なんて明確なものは無いが)はちょうど日本・朝鮮・中国とその勢力圏争いで優劣で言ったら押されてたし、ここはもう引けん!って状態だった所で盟友(と、アメリカは思っている)フランスが迷走。「おいおい、どーすんだよ」な状態だったわけだ。なぜ、そんな無益な戦いをアメリカがやらねばいけないのか?簡単にいえば、アメリカ政府にとって無益じゃないからだ。ベトナム終結から30年、共産圏の崩壊と主なる敵はテロ組織程度、という状況になったのはアメリカ政府(主に共和党)の政策による所が大きい。いろんな要素が絡んで現在に至っているのは当然だが、結果として共産圏が繁栄しなかった要因はアメリカにある。アメリカの狙いは「世界の繁栄、もちろん、その真ん中で笑ってるのは自分」という昔からの(1920ごろ〜)主義主張であって、人を殺したい国ではない。皆が尊敬し、頼ってくれる事を願っての行動原理(一部破綻済み)。ま、いつまで続くか?はアメリカが皆の尊敬に興味を示さなくなるまでだろうな。そのうちやってくるであろう(その時に、リーダーたる資質を自負するのが中国・韓国でない事を祈る)。
いかん、映画映画。政治論は揚げ足取り合戦になるからやめようぜ!って言ってるはなから、これだもの。ま、合戦しなきゃいいんだけどね。それは取りあえず置いといて、特別完全版とうたう割には、本当にこれが完全なのか?とコッポラに聞けば「いや、完全って訳じゃないけど」と答えられそうな完全版。オリジナルの難解さ(というか、混沌さ)への解答は、けっこうあっけなかった。この20年のアメリカ及び世界情勢の動向によって主旨を変えられたようなイメージさえ受ける。単純に撮った当時は、それこそ政策批判でもなんでもなくて、ベトナム戦争という狂気の姿をカメラに収めるという、至極普通なテーマだったのに、完成から20年、作った人以外の人間によって、いろんな解釈がされ、もっともらしく肉付けをされ、一人歩きを迷走したなれの果てがこの映画なんじゃないのか?あの訳判らなさがなくなったら、単なる政府批判の映画でした〜。こんな戦争やっちゃダメでしゅ〜じゃ、辛くないか?ジャンルは違うが、例えば、ビートルズの「サージェント・ペッパー〜」で「特別完全版」と称して、ポール・マッカートニーがプロデュースし、ジョン・レノンの強烈政治メッセージを歌詞に取り入れ、打ち込み音源で当時表現しきれなかったアレンジや構想を加え、演奏不可能だった内容も現在のスタジオミュージシャン達の演奏によって完璧に作り直しました。リンゴの演奏なんかもう機械でやってます。ジョージもジョンもいなくても(不謹慎でスマン)全然OK。しかも分数が70分に増えてCD対応「特別完全版・サージェント・ペッパー〜」みたいな。聞きたくねー!
とにかく、オリジナル版と特別完全版。完全に別もの作品。オリジナル版は底が深そうに見えて実は底が浅い泥沼だったのに対し、完全版は薬品投入で透き通る水の浅い大きい沼になってしまった。結局は底が浅い同士だが、オリジナルには恐ろしげで沼に入れない恐怖心を見る側に与えたので傑作になっているのだ。当時のものは5点満点。その本当の姿は3点だった。
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