[コメント] アメリ(2001/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
というジュネ氏へのあれこれは、とりあえず後回し。
梱包材をつぶす時のプチプチ感、豆袋に手を突っ込んだ時のザックリ感、バックの中のゴミを取って整頓しなおす時の手の届きにくいトコロのゴミが取れるスッキリ感、壁紙が一気に剥がれた時の妙な達成感(コレって日焼け後の皮を一気に剥いた時の感覚に似てる)、等など・・・・。「好きなもの」という言葉でいろいろな性癖が紹介されているけど、コレって元を辿れば「ライナスの毛布」みたいなものだったりするような。個々の感覚にフィットした時の充足感。こういう痒いところに手が届く「おしゃぶり」みたいなものって、誰もがオトナになっても本来感覚で引きずってたりするハズなんだよなぁ。コレが本当の「癒し」アイテムみたいなもののような気がする。珍妙なトコロでは、カサブタ剥がしたり、耳掃除したりってのも同じカテゴリーに入るような気が。
そんな豆の中に手を突っ込むのが大好きなアメリは、奥さんのことしか頭にないお父さんと一緒の生活。学校にも行ってないので友達もいない、幼いころから一人っきり。そんな寂しい周りを埋めるのは夢の中のクリーチャーたち、だから自然と夢見がちな女の子になっちゃうワケだ。他人との接触も上手くとれない彼女も、ある時ちょっとした善行を働いた(宝箱を渡すヤツですね)のを機に、世間とのバランスがとれたような気になる。でも本当のとこはどうだろう?スゴいエネルギーで善行働いたりイヤな奴にお灸をすえたりするけど、良かれと思ってやってるというよりは、自分の思いのままになる気持ち良さの方が先に来ているような。誰もが持っている有りがちな感覚。でも彼女の場合思いのままに夢を描くのと同じ感覚で、見たい世間を「見えない手」で操りながら覗いているみたいだ。ちょっとした神様気分ってな感じ?でも現実の世界に足を踏み入れるのとは、ちょっと違う。
でもそんなアメリにも気になる男の子ができる。彼もまた別な事情で夢見がち。そんなところにちょっと惹かれたのかな。でも真正面からぶつかることも知らず、いつももう一歩のところで引っ込み思案になってしまい、結局彼を立ち往生させてしまう。でもってそこでルノワールの贋作を描き続けるお爺さんのコトバ。「君の骨はガラスじゃない。当たって砕けることなんかないし、いつまでもこのままだと年とったら脆く崩れてしまう」。それから姿を消して立ち回ってることに対して「ちょっと卑怯だ」なんてことも言われてしまう。ようやく彼女も泣きながら、彼を必死で追いかけようとする。すると扉の向こうに彼が立っていた。彼にキスを交わす。感覚が満たされる以上に、ココロが満たされることをコレで初めて知ったところで、めでたくハッピーエンド。
・・・とはいえ夢見がちな女の子が夢見がちな男の子に恋をするって時点で、現実への第一歩が生ぬるくなるのは必然。だからこのテーマにしては食い足りないというか、地に足がついてないというか・・・。とはいえ、男の方は大勢の人間に囲まれながら孤独を味わったワケで、また彼女と事情が違う。そこのところでお互いに食い違いも出てくるだろうから、そこからまた少しづつ違う現実の扉がひらけてきたりもするかもしれない、と考えることもできる・・・つーかそういう事にしておこう(笑)。
それにしても、この筋書きはジュネ氏が地下の夢の世界から出てきて、現実の世界で映画を撮るってことに妙にシンクロしてくる。これは実りある現実への第一歩という、決意表明なのか?でもアメリと同じく、彼の現実との向き合い方もやっぱり生ぬるい。逃げ場を求めるかのごとく現実をおとぎ話のような(バーンズさんのコトバを借りれば)箱庭にしてしまうし。でも幸い今回はそれが効を奏したようで。例えアメリって女の子に満たされなくても、物語と表現がピッタリ(分かり過ぎるくらい)寄り添ってるってことだけで、コチラも満たされた気分になれる。心のこもらない叫び声とか、トイレでのオーバーなセックスとか、相変わらず下品なトコロもちらほら見受けられるけど、今回は許しちゃいます。
思いがけず長ったらしい文章になってしまった。ココまでお付き合い頂いた方、恐縮至極デス。でも最後にコレだけ。この映画で一番日本人が学ぶべきだと思うこと。人の感性の数だけ「癒し」のカタチも(梱包材だろうが豆袋だろうが)様々に存在するってこと。自分だけの「癒し」があることも忘れて、一部の人間に与えられるままに何となく「癒された」気になってる風潮。その場しのぎの浅い「癒され方」しかしてないから、メディアで何か紹介されると、すぐ飛びつく、乗り換える。人任せではなく、日常に転がってる自分だけの「癒し」を探してもいいのでは、なんて思う。
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