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[コメント] アメリ(2001/仏)

夢の中の触感の再現。ブリュレのカリカリ、梱包材のプチプチ、豆のツボツボ、光の水滴をパツンと弾く果物や野菜、水切りの石の滑らかさ、モンマルトルの陽射しの柔らかさ、そして、→
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日本テレビ「特命リサーチ200X」で先日「宮崎駿アニメ人気の秘密を調査せよ 」と題し、そのポピュラリティー獲得の要因を科学的に検証していた。曰く、宮崎映画は「運動視差」や「オプティカル・フロー」の効果を巧みに取り入れ、 我々が網膜に映ったそのままの映像「網膜像」ではなく、脳で様々な処理を経て知覚している映像「知覚像」を再現しているため、実際に描かれているその場にいるような臨場感を生みだしているという。(*詳しくは番組ホームページ参照→http://www.ntv.co.jp/FERC/research/20011021/r073.html)

この『アメリ』もまさしくそんな感じ、我々が夢で見ている時に物に触れた時の触感を再現したような、そんな触覚に訴える映像の洪水。

ブリュレのカリカリ、梱包材のプチプチ、豆のツボツボ、光の水滴をパツンと弾く果物や野菜、水切りの石の滑らかさ、モンマルトルの陽射しの柔らかさ、そして、ニノの首筋に押し当てたアメリの唇。柔らかそうで、ぎこちなくて、こそばがゆいあの感覚を首筋に感じて、思わずモゾモゾしてしまった。

ヤン・シュヴァンクマイエル監督の作品集の枕詞「悦楽!触覚の―」を本作に譲ってもいいくらい。勿論、これまでのジュネ監督の一連の作品も、視覚以外の触覚を刺激するような要素が多く盛り込まれていたが、今回特に、その刺激が「快」のベクトルへ訴えかけるものが多かった故に、これだけのポピュラリティーを獲得したように思う。だから、そのモゾモゾ感を悦楽とするなら、あながち「幸せになる」というコピーも間違ってないかな。指圧やマッサージと同じで、一度やってもらうと癖になってしまう感覚で、リピーターが多いのも納得。

さて、内容だが、それだけ物・対象における感覚の再現は優れているのに、というか、優れているが故に、その<対象>という他者的感覚から抜け出せていないように感じるのも確か。つまり、様々なエピソードが、あまりにもエピソード然としていて、感覚的な迫真性は獲得していても、心情的な迫真性にいまいち欠けていると感じた。登場人物が多いので仕方ないかもしれないが、物語のポイントとなりそうなニノのキャラクター造型もかなり表面的だったのも気掛かりな点。だから、ちょうどジュネの触覚再現世界に馴化、感覚が麻痺してしまった頃に「中だるみ」と感じる人が多かったのではないだろうか。

まあ、そんなケチを付けたくなるのも、こういう映画をこういう季節に友人と観てしまうたび、焦燥感と諦念が募り、北風に背中を押され酒をあおるオイラだからかもしれません。テヘッ。

〔★4.5〕

[12.08.01]

余談:オドラマカード(『ポリエステル』)があれば嗅覚刺激も加わりパーフェクトなのになー、ハハハ。

(評価:★5)

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