[コメント] 殺人の追憶(2003/韓国)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まず誉めよう。見事な絵作り。堂々たる骨太なサスペンス。この監督、まだ若いらしいがこれからが楽しみだ。
さて日本の宣伝は(最近の私はやたら日本の興行会社に毒づいている)『砂の器』『天国と地獄』と並べてきた。きやがった。さすがにそれは如何なものか。
というのも、この映画、「時代」は描いているが「人間」を描いているとは思えない。三人の刑事、あるいは被疑者、誰一人今日ここに至る人生の背景は描かれていない。 先に挙げた日本の二大名作推理映画は共に、犯人の動機描写に重点を置くことで、犯人の人生、そしてその時代(=日本の暗部)を描いていた。 未解決事件だから仕方がないのかもしれないが、この映画の主眼はあくまで「時代」を切り取ることにあって「人間」を描いているとは思えない。
「俺が韓国人だったら面白かったかもしれない」とコメントした理由は、実はここにある。 映画は時代も国境も超えられないというのが私の持論だが、この映画は正にその典型で、韓国の歴史とこの時代背景が分からなければ、この映画が真に意図するところは理解出来ないのではあるまいか。
これは韓国が変わっていく時代が舞台だ。
体力捜査(拷問含む)から頭脳(科学)捜査への移行、冤罪、デモ(学生運動)、国民的に有名な未解決事件(日本で言えば三億円事件)。『猟奇的な彼女』のレビューにも書いたが、日本と韓国は約20年のずれがある(優劣という意味ではない)。そう、この映画は、日本で言えば1960年代、高度成長期で国が変わっていく時代の話なのだ。
『天国と地獄』 (1963年)当時、日本の刑法に身代金誘拐罪は無かったって知ってる? 『砂の器』 (1974年)が、1907年(明治40年)から1996年(平成8年)までハンセン病患者を隔離した「国家犯罪」を告発した映画だって知ってる? 自分がその国の人間だったら、あの刑事の裁判のニュース報道が何だったか理解出来たろう。いや、それ以外にも、もっといろんな「時代を切り取るサイン」が出ていたのかもしれない。その歴史と時代背景を理解していれば、もっと深く愉しめたような気がしてならない。残念だ。
もっとも、日本の興行会社がそこまで理解して宣伝したとは思えないけど。
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