[コメント] 寝ても覚めても(2018/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
昔、高校の同窓会で再会した2人が駆け落ちした事件があった。女性には家庭があった。それから約20年行方知らずだが、映画の最後の2人の眼を見て思い出してしまった。
自分にないものを持ち、自分の知らない世界に導いてくれるが、現実味がない。 朝子にとって麦の存在自体が夢なのだ。 しかし震災の街での朝子と亮平の再会こそが奇跡であり、 それから始まる長い時間が麦を忘れさせてくれたもう一つの夢の時間だ。
しかし麦と亮平の二人が目の前に現れた時、 朝子は本能的に自分の本当の夢を選択する。 でも夢は寝て起きると覚める。 「寝ても覚めても」の繰り返し。
麦が運転する車で夢から覚める朝子。 仙台の防波堤は現実の象徴だ。 そこには綺麗な海は広がっておらず、震災対策で作られた大きな壁が延々と続く。 そして朝子と麦の会話は夢への決別の儀式として極めて機械的に行われる。 登って見えた海も荒々しい現実の海だ。 決して朝子を歓迎してはくれない。 だから自分の足で現実世界に戻っていくしかないのだ。
唐田えりかのキャスティングが実に絶妙だ。 喜怒哀楽が表情に出にくく、劇中マリア像のようにもAV女優のようにも思える。 高速バスの夜営に映る真実を見据えた横顔のなんと美しいことか。 フェルメールの絵画のようだ。
過ちを経てようやく分かる事。 しかしすでに多くの犠牲を払っており、元の関係には戻れない。 でもそこにしか真実はなく、朝子は一心にそれを求める。 ポニョが何の脈絡もなく「ソースケ好き!」と言うように。
川沿いを逃げる亮平。追いかける朝子。 雨の中、二人を照らす微かな光、周りを包む暗い山々、疲れた街。 なんと強烈なロングショット! そして「俺は一生お前のことを信じられへん」と言ってドアを開けた瞬間から 永遠に分かり合えず、離れることができない長い呪縛が始まる。 一方は川が汚いと言い、一方は綺麗だと言う。これから川はどう変わるのか。 劇中の展示写真と同じく、初めてその世界を直視する2人。 そしてそれは2人の視線の先にいる我々にも同様に問いかけてくる。 愛の真実とはこういうもんじゃないの?と
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