[コメント] フルメタル・ジャケット(1987/米=英)
公開当時、翻訳字幕が甘すぎるというキューブリック側の指示で戸田奈津子氏から生井英孝氏(映画業界の人ではなく当時ベトナム戦争などの翻訳本を書いていた方)にバトンタッチされた有名なエピソードを覚えています。何故原田真人氏になったのでしょうね。
この悪意に満ち溢れた2時間の地獄は戦争の功罪を見事に暴いています。
我々はよく「戦争」によって人が変わっていくことを嘆いたりしますが、この映画では「人によって戦争が起こされ、人によって人が壊される」という根本を思い出させてくれます。
確か当時は「プラトーン」を代表とした多くのベトナム戦争映画がつくられていました。しかしそれらは全て「戦争というものに巻き込まれた可哀想な若き兵士たち」という被害者的視点で描かれていました。
しかし、この映画は違います。人間を人間とも思わないような言動で罵倒されつづけていくことで善悪の思考を麻痺、そして破壊され、服従することを使命とする「兵士というロボット」を作り出していく過程がこれでもかというくらい強烈に描く加害者としての視点です。
反戦映画は大概、兵士の殺人に対する苦悩が前面に出されます。人間の良心に訴えかけようとするのですね。もちろんそれも必要。しかし、この映画はあえてそれをしなかった。まさにこの「人間というものが破壊されていく過程」を執拗に描くことで軍隊にすら入隊させない抵抗を試みたわけです。
ここにはもうひとつの戦争の側面があります。 私の中で最強の反戦映画とはまさにこの映画です。
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