[コメント] キル・ビル(2003/米=日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この映画はタランティーノ監督の偏愛映画のコラージュであるといえるが、別に原典を知らなくても充分楽しめるように出来ている。その偏愛映画というのがマカロニ、チャンバラ、カンフー、怪獣映画などで、これらのジャンルがまず第一に観客を楽しませなきゃならん、という至上命題があったのだから、この映画が面白いのは当然だろう。もちろんそれだけで面白くなるわけではない。ズバリ演出がうまい、緻密である。正直言って、この監督がこれほど演出センスがあるとは思わなかった。また主人公の行動原理にはブレがなく、筋が通っている。観ている我々は否応なく、主人公とともにこの血煙り街道に引きずりこまれていくだろう。
主人公ブライドは復讐を誓い、ジャンボジェットに乗って東京に乗り込む。眼下の東京がミニチュアなのは日本の特撮映画への敬意からだが、ブライドの決意の大きさを印象付ける(マンガ「巨人の星」とか「北斗の拳」とかで人物がいきなり巨大になる表現と似ている)のに役立っている。ここでコックピットが短いショットで写るのがうまい演出。あたかもブライド自身がこのジェット機を操縦しているような錯覚を起こさせる(というか「彼女が操縦していると思え!」という監督の指示が入ったということだな)。相手の名前をノートにペンで一々書きこむというのも決意の固さの現れである。ベタな表現だが実直に書きこむシーンの積み重ねで説得力を持たせている。
ブライドの確固たる復讐心と同時に、子供に母親を殺す場面を見られてしまうという失態を冒頭持ってくることによって、ブライドの心に迷いが早くも生じていることを予感させる演出もうまい(相手は一応平和な家庭を築いていた。そんなことで決意が揺らぐはずもなかったが・・・?)さらに雪の日本庭園でのオーレン石井戦で彼女はオーレンの強さに一定の敬意を抱く。日本語での会話の応酬がその敬意のあらわれか。そして強さを認め合った堂々たるタイマン勝負が観られる。このようなアクションシーンを最近のアメリカ映画に観たことがあっただろうか?雪上で草履を徐に足で後ろに下げ、揚羽の構えで立つルーシー・リューの美しさにもなにかしらの決意を感じさせるものがある。
ブライドは沖縄にて服部半蔵から刀を受け取る。この時、部屋には祭壇があり、注連縄が飾られ、神域の中で行われる。半蔵だけでなく、ブライド自身も白装束姿だ。沖縄が古代の信仰を今日まで色濃く残している場所であり、刀にシーサーの銘が入っていることを見ると、刀を受け取ったと同時に東洋の神がブライドに憑依したといって良いだろう(アメリカ人でありながらこんなシーンを撮ってしまったタラ監督には敬意を表します)。神の力を借りて戦うー彼女が何十人もの敵を斬りまくれるのも当然だろう。強いて言えば青葉屋での戦いで彼女の構えに腰が入ってなくても、腕がブルブル震えてても、ゼイゼイと息が上がってても、それでも勝ってしまうのも当然である(注:このあたりかなり妄想がはいってます)。ここはほとんどCGも光学的なトリックも使わず俳優の肉体と古典的なメイクのみで撮りきったアクションシーンを評価すべきだろう(今日び日本の『座頭市』でも血しぶきはCGなのに・・・)。実際、ユマ・サーマンが己の肉体は最大限酷使して走る、飛ぶ、天井に張りつく・・・その姿は実に美しいと思った。そしてこの立ちまわりは、ブライドが欄干に仁王立ちになり日本語で啖呵によって終結する。「命ある者はここから立ち去るが良い。ただし失った手足は置いて行け。それは、わたしのものだ!」外人の語る日本語をこれほど興奮して聴いたことはかつてありません。
この映画の欠点、それはやはり服部による剣術指導のシーンが入っていないことだろう。ブライドの意志の強さを示すのに必要なはずだし、どんな超人的な強さでもそのようなシーンがあればとりあえず納得はするものである。刀を鍛えるシーンがちょっとでもあればなお良かったのだが。聞けば指導シーンのセットもできていたそうだが結局撮られなかったそうで、真に残念である。さらに言うと, 『博徒外人部隊』とかも観てるだろうから沖縄の現状はわかっているであろう監督には是非とも沖縄ロケを敢行にて貰いたかった(費用がかかり過ぎて無理なのはわかります)。 しかしながら修行シーンについてはVol.2でパイ・メイの下でドラゴン・ボール並みの修行をするらしいのでそちらに期待しましょう。
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