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[コメント] ショーシャンクの空に(1994/米)

妖しく妖しく美しい作品。(レビューはラストに言及、本作のネタバレ考を後置)
グラント・リー・バッファロー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







他の方のレビューを読むにしたがって、かなり都合のいい部分が多いことに気づく。ポスターは最後の時に限らず、何度も出入りしているならたとえ貼る道具があったとしてもボロボロになっているだろうし、「希望」といってももし独房の移動を命じられたら(無期刑のひとはずっと同じ独房なものだろうか)たちまちに「絶望」に変化してしまう危ういものであったことに後でドキドキしたりする。興醒めさせてしまうかもしれないが、元服役囚の自殺者が彫りつけたメッセージが消されずに残っている可能性も実はとても低いのではないだろうか。

しかし、そのような側面を知っていても、原作を知らない私は本作を高く評価したい。

いやになるほど人間くさいモーガン・フリーマンをはじめとして、脇を固める人物の造詣はよくできていた。まず図書係の老人が、仮釈放で数十年ぶりに乗ったバスの中や、車が飛び交う道を不安げに歩くシーンの存在感。彼自身のナレーションは少々余計であったが、これだけで短編になりうるような話(それでいて後のシーンの伏線にもなる点で本作全体の構造にも繋がる)それ自体はけっして都合のよい話ではなく滋味あふれるものであった。

あとあの所長。彼は悪人として一方的に描かれているようには感じなかった。むしろ主人公に魅せられた、はじめから哀れな人物のように感じた。若い服役囚に対するあの仕打ちも、主人公が自分の手元を離れることへの恐怖心から生じたものであろう。少し同性愛的な匂いがした。

それもこれも、ティム・ロビンス演じるあの主人公の妖しげな存在感につきるかと思う。何を考えているのか見えてこない彼は共感などできる存在ではないし、「善」を体現する存在でもない。実は彼が無実かどうか真犯人がどうかということはそれほど重要ではなく、本当に重要だったのは彼が刑務所のなかにおいて、所長も含めて様々な人物を魅惑する存在であり、いつのまにかスルリと姿を消した不可思議な存在であったことかと思う。そもそも彼が実在していたかどうかすら疑わしく思え、すべては刑務所の中の人間が作り出した束の間の幻想だったと言ってしまっても、私にはそれほど違和感がない。

考えてみれば、汚い刑務所と綺麗な外界という二項対比も怪しいと思う。独房の壁のあの手触り感、チェスの駒が撥ね返す柔らかな光、美しい曲線、刑務所もだいぶ始めのうちから美しく描かれていた。冒頭で述べた都合のいい部分も、本作での妖しさや美しさの前に道を譲る、というかそれすら実は現実味のない魅惑的なこの幻想世界の伏線のようにすら感じる。

本作は感動作と言われているらしい。実際、刻み込まれた"Brooks was here"という言葉や、そのあとのモーガン・フリーマンの「ここで死なせてやりたかった」(字幕だと「哀れな最期だ」になっているが、だいぶニュアンス変えてしまっているのでは?)のセリフなどにはやられてしまうのだが、それよりも禁断の果実のような美しさに魅惑されたというのがより正確な言い方ではないだろうか(極論?)、たとえそのなかに狂気のようなものが混じっていたとしても、そのなかに身をまかせてしまいたい衝動に駆られる。5点に届かない部分の0.5点は辛うじて現実に踏みとどまろうとする私の理性の部分なのかもしれない。(★4.5)

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(以下、レビュー自体とは無関係な本作のネタバレ考)

アルシュ氏が、やんわりと本作についての複数のコメントがネタバレと指摘されていたが、私もそう感じた。実はこのコメント数1位の本作、ずっと未見だったのだが、入会当時、一度ここでのコメントをざっと見た際に、大体どのような終わり方をするのかが先にわかってしまった。(それ以来、私は未見の映画のページは覗かないようにしている。)

私は自身にとってのネタバレのハードルをいくつか設けている。 (1)ネタバレとは思わない。 (2)ネタバレの要素もあるのだが、投票するほどではない。 (3)ネタバレ要素が濃いが、自分のネタバレ基準が厳しすぎる疑いもある。 (4)明らかにネタバレをしてしまっていると確信がもてる。

そして、実際の行動としては、(1)と(2)は動かない。(N票は別)(3)については、すでにネタバレ投票がされていた際にY票を投じる。(4)は自分が一票目であってもY票を投じる。

それは作品の性質によっても異なるのだが、本作についてはハッピーエンドとかラストが海のシーンになると言ってしまうだけで、私には(2)以上の範囲に映る。自身のレビューでは無実であるかどうかはかかわりないとは言ったものの、それはあくまで狭い自分の関心であり、他の方の関心にかかるかもしれない無実かどうかの結果をコメント部分で言及してしまうのは私にとっては(3)か(4)の範囲に感じた。また本作のコメントはどれか一つで本作をばらすのではないとしても、各コメントを足すと結果的に全体のネタバレに繋がるという感じがした。他の作品以上にネタバレハードルが緩くなってしまっている本作のコメントをする際には、ネタバレについてもっと慎重になってもよいのではないかと個人的には感じた。

といっても、私がいつも他のコメントがネタバレかどうか虎視眈々と見張っているように思われてもしかたないので(ズルイかもしれませんが)、極力ネタバレ投票はしないようにはしている。他にも、Y10票N1票などのコメントを(3)以上のネタバレと思っても、いくらそれがコメントを見えにくくするだけの機能を担うとしても、何らかの威圧的な部分がまったく介在しないとは言いきれないと感じているので、そのようなものには投票しないと決めている。できれば、Y票を投じてお知らせするのではなく、各自の方が赤レビューの機能を活用して、もう少しネタバレについて慎重な態度を自身で身につけていかれるのが筋だと思う。その意味で、ネタバレ投票制度は私にとっては過渡的なものである(警察も資本主義も過渡的なものと言っているのと同じレベルなのかもしれないが)。もちろん自身のコメントもネタバレについて甘い部分があるかもしれず、その際にはネタバレ投票をいただいて勉強させていただこうと思っているし、ここらへんで一度100を越えたコメントの見直しをはかりたいと思っている。

(評価:★4)

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