これは今までもいくつかの映画に関して書いていることなんだけど、僕は「主人公が調子に乗ってつまらないミスをすることで窮地に立たされる」展開が大っ嫌いだ。理由は至極簡単で、「あぁもう何やってんだよ！イィィィィィ！」ってなるから。物語を盛り上げる助走として必然性のない失敗を押し付けられるくらいなら、順風満帆なだけの物語を観ている方がまだ気持ちがいい。だから逆に言うと、それを押し付けてくるなら相応のドスゴい盛り上がりを見せろよと。僕の「イィィィィィ！」を解消して余りあるだけのスッキリを与えてくれよと。大体の場合、こういう下らない盛り上げ方をする映画はそのスッキリを与えてくれないもんだったりするんだ。

　今作もまた、こういう「イィィィィィ！」を思う存分味わわせてくれる作りになっている。「1作目で調子に乗って2作目でヘコんでんだから、3作目でまた調子に乗らなくたっていいじゃん」と思う僕を尻目に、まぁピーターもMJもやりたい放題好き放題。ここだけ観たらピーターはうすらバカだしMJはズベ公だよ。もうイライラすることこの上ない。

　ただ今作が他と違うのは、後半でこれを補うに充分なお祭りを見せてくれたってことだ。ピーターが黒スパイダースーツを脱ぎ去った辺りからの怒涛のポジティブ展開、そのテンションの振り切れぶりは最高に気持ちがいい。特に3人の悪役が、それぞれに興奮するポイントを備えていたことが大きかった。

　まずはその登場を引っ張りに引っ張って、物語も佳境に入ってから姿を現すヴェノム。ここに至るまでに存分に他の二人の悪役の厄介さを描いてあるため、「ここへ来てまだこんなのが増えるのか！無理無理！スパイダーマン無理！」というインパクトは大きかった。また彼と手を組んで警官隊を追い払うサンドマンの、あり得ないほどの巨大さも圧巻。それまでのサイズ（それでも充分デカかった）がまるで伏線だったかのように、もはや怪獣並みのサイズでスクリーンいっぱいに暴れ回る様は壮観だ。これは単に「デカいCGを作った」ということではなく、その出し方や見せ方が上手いということなんだと思う。

　そして何より効いたのが、ニューゴブリン・ハリーのベビーフェイスターンだ。過去2作において「未来の悪役候補」として存在し続けてきた彼が、ここへ来て最高のダークヒーローに変身を遂げるとは、いったい誰が予想できたというのか。またこのジェームズ・フランコ君がいい笑顔するんだ。この笑顔の有無だけで彼の心情が如実に伝わってしまうくらいのいい笑顔。ラストバトル、彼が火傷を負って尚この笑顔を見せることで、彼の物語は「ピーターに対する父殺しの誤解を解く」から、「己に消えない傷を残したピーターをそれでも想う」という高みにまで昇っていくんだ。軽口を叩き合いながら、にこやかに命を賭して戦う二人は本当に格好いい。

　ただ一点、ラストバトルの最中に気になったことがあった。それは「ハリーと仲直りすることでピーターとMJのヨリも戻るなら、その後のハリーはどうなっちゃうんだろうか」ってことだ。あの傷を残したままピーターとMJの後ろに控えているんじゃ、観ているこっちがキツ過ぎる。だから最後の最後に彼が死んでしまったとき、正直どこかでホッとした気持ちがあった。いや、これはちょっと語弊があり過ぎる物言いなんだけど、彼の物語はあそこで終わることでフィクションとして成立し得たように思えたんだ。そしてだからこそ、ラストで黙ったまま抱き合うピーターとMJの姿が、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない“アンハッピーエンド”として映画を締め括るに足りたように思うんだ。

　この『スパイダーマン』というシリーズは、いつも観客にこの“不安定な感覚”を抱かせる映画だ。爽快でも不快でもない、何だか心の端っこに小さく引っかかるカギを持った映画だ。細かな登場人物にそれぞれの物語があり、だからこそ大家の娘はクッキーを焼くし、だからこそピーターはグウェンよりブサイクなMJを最愛の人として選ぶんだ。この複雑でリアルな人間心情というベースの上で、崇高なるダークヒーロー譚と爆発的なバトルアクションを見せ切ってくれた。だから今作はスゴいんだと思う。