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[コメント] トニー滝谷(2005/日)

絶妙な配役が描く,今のトニーの心象風景
moot

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







宮沢りえ演ずる二人の女性は,実際には,まったく別の顔立ちをしていたに違いない.もし,あの女の子が妻にいくらかでも似ていたなら,妻を亡くしたばかりのトニーが動揺しないはずはないから.にも拘わらず,宮沢りえが二役を演じたのは,本作が,再び孤独になった「今」のトニーの「心象風景」だからだと,私は思う.

事故から三年が過ぎた今,トニーには,もはや妻の顔さえうまく思い出せない.彼と過去とを繋ぎ止める唯一の手がかりは,どうしても焼き捨てることのできなかった,あの女の子の履歴書だけになった.

ラスト.苦しみ抜いた彼は,その履歴書を手に電話をかける.本作は,このラストに至る,苦しみの過程で浮かび消えていった,彼の心象風景だったのではないだろうか.妻の顔すらもあの女の子なしには思い出せなくなった彼.そんな彼の心象風景ゆえに,二人の別人は宮沢りえ一人によって演じられる必要があった.トニーは,それほどまで深く徹底的に,自らを損ない続けてきたのだろう.

だからこそ,この希望に満ちたラストに,私は心を打たれた.大丈夫.今やトニーは電話をかけることができるし,電話のすぐ向こうにはあの女の子がいるのだから.

(2005.2)

(評価:★4)

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