★4 | すべての夜を思いだす(2022/日) | 東京郊外の広大なニュータウン。ある春の日。失業中の独身中年女性・知珠(兵藤公美)は、友人から届いた転居ハガキを頼りに道に迷いながら旧友の家を探していた。いつものように担当エリアをまわていたガスの検針員の早苗(大場みなみ)は団地内で行方不明になっていた老人(奥野匡)に遭遇する。地元育ちの大学生の夏(見上愛)は、ある届け物をするために一年前に亡くなった男友達の母親のもとを訪ねるのだった。今を生きる世代の異なる3人の女性に流れる時間が、入居開始から50余年を経た多摩ニュータウンに生きた人々の時間と記憶に重ねて描かれる。清原惟監督の長編第二作。(116分)
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★4 | ヴェルクマイスター・ハーモニー(2000/ハンガリー=伊=独=仏) | ハンガリーの小さな町。若いヤーノシュ(ラース・ルドルフ)は郵便配達員をしながら老作曲家エステル(ペーター・フィッツ)の世話をしていた。町のインフラは滞りがちで住人たちの生活は困窮し重苦しい空気が人々を覆っていた。ある夜、町に見世物屋の巨大な"クジラ”が巡回してきた。そして、クジラとともに“プリンス”と呼ばれる謎の男も町にやってきたという噂が流れ漠然とした不安が広がっていく。同じころ、夫をおいて町を出ていたエステル夫人(ハンナ・シグラ)が突然ヤーノシュの前に現れ「ある依頼」をするのだった。全編わずか37カットで綴られる2時間25分の自戒の物語。(モノクロ/145分) | [投票] |
★3 | 違う惑星の変な恋人(2023/日) | 美容室で働くマイペースなむっちゃん(莉子)は、先輩美容師のグリコ(筧美和子)に誘われて行ったシンガー・シューコ(みらん)のライブ会場で、グリコから紹介されたレコード会社のベンジー(中島歩)にひとめ惚れ。一方、グリコは別れたばかりの冴えない元カレのモー(綱啓永)から復縁を迫られ呆れ果てていた。そして女性関係にルーズで優柔不断なベンジーも別れ話を抱えていた。そんな男女たちの恋愛感情はいつしか四すくみ状態に! 複雑に絡まり合った関係を整理するために4人(ともう一人)はサッカーW杯の日本対カタール戦の夜、一堂に会するのでした。これが長編第三作となる木村聡志監督・脚本の恋愛群コメディ。(116分) | [投票] |
★5 | 瞳をとじて(2023/スペイン) | すでに映画界を離れていた初老の監督ミゲル(マノロ・ソロ)は、22年前に自作の撮影中に失踪し、いまだに行方が分からない主演俳優フリオ(ホセ・コロナード)をめぐるTVドキュメンタリーへの出演依頼を受けていた。1947年のスペインが舞台の映画は、フリオが演じる探偵が老齢の資産家(ホセ・マリア・ポウ)から中国人を母に持つ娘の捜索を依頼される物語だったが、冒頭と結末部分だけが撮影され未完のまま終わっていた。この番組出演をきっかけにミゲルの止まっていた時が動き始め、当時の仲間や恋人のもとを訪ねるなかフリオの娘アナ(アナ・トレント)と再会するのだった。ビクトル・エリセの長編としては31年ぶりの監督作。(169分) | [投票] |
★5 | 夜明けのすべて(2023/日) | 月経前症候群(PMS)のため藤沢美紗(上白石萌音)は抑えきれない突発的な怒りに襲われ周囲とトラブルを起こしてしまうという悩みを抱えていた。職場を転々とし、今は小さな光学機器会社で社長(光石研)や同僚(久保田磨希/足立智充)たちに囲まれた家族的な職場で仕事をしていた。ところが、転職してきた後輩の山添(松村北斗)のやる気のなさそうな仕事ぶりに怒りを爆発させてしまう。しかし山添もまたパニック障害という病を抱えていた。そんな二人は同情や恋愛ではなく「同志」のような感情を抱き始めるのだった。『ケイコ目を澄ませて』でコンビを組んだ撮影監督月永雄太をむかえて16ミリフィルムで撮った三宅唱の監督作。(119分) | [投票] |
★4 | サン・セバスチャンへ、ようこそ(2020/スペイン=米=伊) | かつて大学で映画を教えていた熟年ニューヨーカーのモート(ウォレス・ショーン)は映画広報の仕事をする妻スー(ジーナ・ガーション)に付き合い映画祭が開催されるサン・セバスチャンを訪れる。クラシカルな哲学的映画を敬愛する彼は、社会問題を安易にエンタメ化する今の商業主義映画を毛嫌いしているが、スーは取材を口実に注目を集める売れっ子監督フィリップ(ルイ・ガレル)にべったり。妻の浮気を疑うモートは歴代の名作映画を彷彿とさせる奇妙な夢をみるようになり体調もすぐれない。そこで訪れた医院の女医ジョー(エレナ・アナヤ)に夢中になってしまう。自身の老境を重ねたようなウディ・アレンのロマンティックコメディ。(92分) | [投票] |
★4 | 哀れなるものたち(2023/英) | 19世紀末のロンドン。自殺を図った若い女性が、狂人的外科医バクスター(ウィレム・デフォー)によって、身籠ていた胎児の脳を移植され肉体は大人だが知能は幼児のベラ(エマ・ストーン)として蘇生した。バクスターはベラを溺愛しつつも、実験の成果物として彼女の成長過程を弟子の医学生(ラミー・ユセフ)に記録させ、やがて性に目覚めたベラと結婚させようとする。そんな"奇妙な一家"の存在を知った好色家の弁護士ダンカン(マーク・ラファロ)はベラをたぶらかし国外へ連れ出してしまう。本能の赴くまま性に溺れるベラだが、リスボンから地中海の航海を経てアレクサンドリア、パリを巡るうちに独自の生き方に目覚めるのだった。(142分) [more] | [投票] |
★4 | 葬送のカーネーション(2022/トルコ=ベルギー) | トルコ南東部の荒涼とした大地。年老いた難民の男ムサ(デミル・パルスジャン)は、生前に約束したとおり亡くなった妻を故郷の地に埋葬するため、妻の棺桶を運びながら両親を亡くした孫娘のハメリ(シャム・シェリット・ゼイダン)を連れてヒッチハイクでシリアとの国境を目指していた。トルコ語が苦手なムサは寡黙で、ときに孫娘を通訳として行き交う人々の力を借りながら遅遅としてではあるが目的の地に向かうのだった。トルコのベキル・ビュルビュル監督の長編第二作となる社会情勢を織り交ぜながら「旅と死」を描く寓話的ロードムービー。(103分) | [投票] |
★5 | ショーイング・アップ(2022/米) | 母校の美術学校で事務職をしながらキャリを積んでいる彫刻家のリジー(ミシェル・ウィリアムズ)は大切な個展を控えていた。作品の制作に集中したいのだが周りの雑事が邪魔をする。特に、彼女の家の大家でもあり隣りに住んでいるインスタレーションアーティストのジョー(ホン・チャウ)が気になってしかたない。着々と頭角を現し注目を集めるジョーのマイペースぶりにリジーは焦りを募らせイライラ。そんな日々、リジーはいわくつきの"怪我をした鳩"の世話をジョーから押し付けれるように頼まれてしまう。アーティストたちが行き交うキャンパスを舞台にして作風の新境地をみせるケリー・ライカートの脚本(共同)/監督作。(106分) | [投票] |
★4 | ファースト・カウ(2019/米) | 19世紀前半の西部開拓時代。未開の地オレゴンには一攫千金を狙った者たちが競い合うようにうごめいていた。心優しい調理人のクッキー(ジョン・マガロ)は荒くれ男たちの狩猟団の食事係をしていた。ある夜、ロシア人グループに追われていた中国人移民キング・ルー(オライオン・リー)を匿ってやり二人は心を通わせる。やがて野心に満ちたルーは、クッキーの料理の腕を見込んで不正に手に入れた牛乳でドーナツを作り売り始め、これが大人気に。その評判を聞きつけ入植地で手広く商売をするイギリス系の仲買人(トビー・ジョーンズ)がやってくる。夢を求めて新天地を目指す若者の友情を描くケリー・ライカートの西部劇。(スタンダード/122分) | [投票] |
★2 | 野生のなまはげ(2016/日) | 秋田の山中で絶滅したと思われていた〈野生のなまはげ〉が捕獲された。さっそく、なまはげ専門家の東北南東大の山田教授(今谷フトシ)のもとに送られることに。ところが輸送の途中で〈なまはげ〉が逃げ出してしまった。・・・東京近郊のある町。小学校6年生の守(中島蓮)は、両親が離婚し無気力になっていた。その日も学校をサボった守は、街中の公園でなんと〈なまはげ〉に遭遇。逃げる守を追って家まで着いてきて、守の部屋にいついてしまった。さあ困った。母(長宗我部陽子))は大の動物嫌いなのた。同じころ、悪徳ペットショップの佐藤兄弟(金子宏貴/網川凛)が一攫千金を狙って〈なまはげ〉捕獲に暗躍し始めるのだった。(86分) | [投票] |
★4 | ハッピー・オールド・イヤー(2019/タイ) | 北欧留学で必要最低限の物しか持たないミニマル生活に感化されたデザイナーのジーン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)はバンコクの実家のビルを改装して事務所にしようと思い立つ。父が家族を捨てて出て行ったあと、母と兄が暮らすその家はジーンにとって不要な物で溢れかえっていた。いざ処分を始めると母は大反発。ただの「物」に染みついた人の思いはさまざまな波紋を広げてしまう。そんななか思案の末、3年前に気まずい別れ方をした恋人のエム(サニー・スワンメーターノン)宛に送り返した「想い出の品」が、受け取り拒否で戻ってきてしまう。捨て去るモノと残ったモノ。ジーンが次ぎへ進むために捨てたものの代償とは。(113分) | [投票] |
★3 | ヤジと民主主義 劇場拡大版(2023/日) | 安倍首相の遊説中に起きた「ヤジ排除問題」の顛末を4年間に渡り取材した北海道放送の番組の劇場用ドキュメンタリー。2019年、札幌で演説中の安倍首相を囲む聴衆から政権を批判するヤジが飛んだ。声を上げたソーシャルワーカーの男性と女子大生は、すかさず北海道警警備課の制服、私服警官たちに取り囲まれ「周りの人に迷惑だ」という理由でメディアや衆人の目の前で実力行使を持ってその場から引きずられるように排除された。その後二人は道警を相手に「排除の不当性」を訴えて裁判を起こす。その経緯を警察関係者やその場に居合わせた人々に取材を重ねながら「声を上げること」の重要性と「根拠なき取り締り」の恐ろしさを問いかける。(100分) | [投票] |
★3 | NO選挙,NO LIFE(2023/日) | 国政から地方選、海外まで選挙戦の取材歴25年。有力候補から泡沫候補まで立候補者全員のコメントを取ることを自らに課すフリーライター畠山理仁(はたけやまみちよし)の肩越しに見える「選挙」とは・・・。かつて開高健ノンフィクション賞を受賞した畠山だが、その"偏執的”な取材スタイルから原稿を書く時間もままならず採算度外視の状況が続く。そんな畠山の2022年の参院選東京選挙区と沖縄県知事選の取材に密着する前田亜紀監督のヒューマンドキュメンタリー。自らハンドルを握り分刻みで候補者を追い続ける畠山は50歳の誕生日を前に“この生き方もそろそろ潮時です”と引退を口にする。(109分) | [投票] |
★4 | 街の灯(1974/日) | チョロ松こと千代松(堺正章)は、兄ちゃんと呼ぶ戦争孤児なかまの梅吉(財津一郎)と組んで、街で若い女に声をかけては会社会長の好色爺さん(森繁久彌)に紹介するポン引き家業で暮らしていた。会長のお気に入りは、いまテレビCMで売り出し中の美少女タレント欅ヒロミ(栗田ひろみ)だが、もちろん千代松たちに知り合う術などあるわけなし。そんなとき駅で寸借詐欺を繰り返す老人(笠智衆)とヒロミにそっくりなハナコ(栗田(二役))と知り合った。ハナコを替え玉にしようと千代松は二人に付きまとい、ついに東京から九州まで徒歩で珍道中を繰り広げることに・・・。森崎東脚本(共同)/監督のロードムービー喜劇。(91分) | [投票] |
★4 | 市子(2023/日) | 28歳の川辺市子(杉咲花)は3年間同棲していた長谷川(若葉竜也)のプロポーズに涙を流した。そして幸せを確信した長谷川の前から忽然と姿を消してしまう。やがて市子のことを聞きに刑事(宇野祥平)が現れた。母親のなつみ(中村ゆり)と幼馴染みの山本さつき(大浦千佳)、高校時代の同級生・田中宗介(倉悠貴)や北秀和(森永悠希)、かつての職場の同僚・吉田キキ(中田青渚)らとのエピソードから市子の過酷な半生がおぼろげに立ち上がる。幸福を求めて自らの存在を肯定するために懸命に生きる市子の人生に、はたして救いと赦しはあるのだろうか。監督の戸田彬弘が主催する劇団の公演作「川辺市子のために」の映画化。(126分) | [投票] |
★4 | 喜劇 特出しヒモ天国(1975/日) | 特出しが売りものの京都のストリップ劇場。潜入刑事(川谷拓三)による摘発のドタバタ騒動でセールスマンの昭平(山城新伍)は偽支配人に仕立てられてしまう。花形ストリッパー・ジーン(池玲子)、アル中のヨーコ(芹明香)、恋人(川地民夫)に素性を隠していたニューハーフのサリー(カルーセル麻紀)、ひがみ屋のリズ(絵沢萠子)、子持ちのハニー(中島葵)、聾唖で踊り子志望の由紀夫婦(森崎由紀/下絛アトム)、ヒモ志願の老大工・善さん(藤原釜足)に工事現場でスカウトされた千鶴(松井康子)。そんな踊り子とヒモたちの群像コメディ。日活ロマンポルノ女優を迎えた松竹出身の森崎東による東映京都作品。(78分) | [投票] |
★4 | ほかげ(2023/日) | 敗戦直後の焼け野原の町。半焼けのあばら家となった居酒屋に死んだように潜む女(趣里)がいた。女は訪ねて来る男に酒を出して体を売る。女のもとに元教師の若く気弱な帰還兵(河野宏紀)が入りびたるようになり、闇市で食べ物を盗んでは逃げ込んでくる10歳ぐらいの戦争孤児(塚尾桜雅)とともにいついてしまう。女から盗みを止めて仕事を探すように言われた孤児に、いい仕事があるとテキ屋の男(森山未來)が声をかけてくる。戦争の深い傷を抱えた者たちの絶望と、その先の希望を模索する塚本晋也のオリジナル脚本/監督作。(95分) | [投票] |
★4 | 正欲(2023/日) | 会社員の佐々木(磯村勇斗)は自分の性癖に悩み世の中から自身の存在を消してしまいたいと思っていた。量販店の販売員・夏月(新垣結衣)もまた思春期のころから出来るだけ他人と関わらないようにして生きてきた。検事の寺井(稲垣吾郎)は学校へ行けない10歳の息子を理解できずにいる。男性が苦手で過度に反応してしまう大学生の八重子(東野絢香)だが、ダンスサークルの孤高の同級生・大也(佐藤寛太)のことが頭から離れなくなってしまった。生まれつきの嗜好や性癖のため世間と相いれず孤独と疎外感に苦しむ人々の希望をさぐる群像劇。港岳彦脚本、岸善幸監督による朝井リョウの同名小説の映画化。(134分) | [投票] |
★4 | アブノーマル(1993/豪=伊) | 製作から30年を経た2023年に『悪い子バビー』の題名で日本初の劇場公開となったロルフ・デ・ヒーア監督の1993年のベネチア国際映画祭 審査員特別賞受賞作。「ドアの外の世界は猛毒で汚染されていて部屋を出ると死んでしまう」 バビー(ニコラス・ホープ)は、そう母親(クレア・ベニート)からきつく言い聞かされて35年間一歩も部屋を出ず育った。10代でバビーを生み二人きりで過ごしてきた母は豊満な肉体で性的にもバビーを支配していた。そんなバビーがある男の訪問をきっかけに外の世界へ。見るのも聞くものすべて初めてのことばかり。そんなバビーの突飛な言動が周囲の人々を巻き込んでいく。(114分) | [投票] |